小説U
□『夢幻〜relic〜』
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「ハイネ…」
その名を口にする。
何故、自分はその名を口にしたのかは分からなかったが──…
‥・【夢幻〜relic〜】・‥
名を呼べば、橙の髪を靡かせ振り返るその姿。
その姿に、ああ…と、納得した…。
あの時の、あの笑みを浮かべて…
笑っている…。
その姿を眺め、
ああ…此れはきっと、夢なのだ…と…
何処か、冷めた自分がいる。
けれど…
お前の姿が…
橙の髪が…
深い翠の瞳が…
自分を映す様に…
知らず、腕を伸ばそうとする。
…けれど、自分の体はソコには存在しなく…
どんなにその体に触れたくても、それは叶わぬのだと思い知らされる…
けれど、そんな自分に、お前は笑みを浮かべたまま語り掛ける。
昔の様に、他愛も無い話だったり…、楽しそうに…
それは、頭に入ってくる様で、入ってこない。
ただ、その姿だけが鮮明で…
橙の髪に、赤い軍服…。
昔のままの姿…
きっと、もう…変わることのないであろうその姿…
その姿を…
只々見詰める。
幾時そうしていただろう…。
長い様で、短い様な時間。
時間感覚等、当てにならぬ時間…
そんな自分に、ハイネは笑い掛ける…
「アスラン…」
漸く聞き取ることの出来た言葉は、自分の名を呼ぶ懐かしい声。
そして、
「ごめんな…。…さよなら…。」
謝罪の言葉と、別れを告げる優しいその声。
何故、謝る…。
何故、別れを告げる…。
何故…
夢の中なのだろう…
ならば…
ならば、ずっと一緒に居るコトも出来るのだろう…?
なのに、何故、お前はソレを自分に告げる…。
その言葉と共に背を向けるその姿に、自分は、何故…と、問うことしか出来なく…
何故、お前は居なくなる…
何故、お前は居なくなった…
何故…
遠ざかろうと、薄れていこうとするその姿に、追い縋ろうとするのに、それは出来ぬのだと…
名を呼ぶ事も、追い掛ける事も出来ぬのだと…
段々と薄れていく姿に、
何かを…
伝えたくて…
胸元に蟠る、あの日からの想いを伝えたくて、必死になり声を振り絞る。
「…ッハイネ───…ッ!」
漸く出す事の出来た声は、あの時と同じ、お前を呼ぶ声で──…