小説T
□『white〜snow〜』
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『…アスラン──…』
そう、名を呼ばれた気がした…。
* ‥【white〜snow〜】‥ *
空からは雪。
灰色の空から舞い降りるのは、真っ白な雪…
それ以外、何も無い。
月も、星も、雪の中に隠されたその中に、自分一人が立っている…。
誰もいない…
自分一人…
ただ、空を見上げる。
雪の舞い散る、その空を…
声が聞こえた気がした…
自分の名を呼ぶ、懐かしい声…
ただ…
自分の名だけを…
その声は、誰のものだったか…
喪ったものが多すぎて…
わからない…
消してしまった過去の記憶。
哀しみから…
辛さから…
消してしまった筈のソレは…
でも
確かに自分のナカに存在していて…
忘れること等、出来る筈がないのだと改めて思い知らされる…。
唇を動かし…
「─────」
名を呼ぶ。
小さく呟いたソレは、自分の耳にさえ届かなく…。
自分は、その口に誰の名を乗せたのか…
分からぬまま、一筋の涙が冬の空に冷やされた頬を伝った…。
* ‥─end─‥ *