小説T
□『この手の中から溢れ落ちたもの』
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『ディアッカ、何か欲しい物あるか?』
ふと思い出した、昔のお前の問掛け。
【この手の中から
溢れ落ちたもの】
パララ…
と、手の中のグラビア雑誌が数ページ流れていく。
「…………………。」
昔…
まだ知り合ったばかりの頃。
その日、当日に俺の誕生日を知ったのか、そのまま俺に欲しい物はないか、と聞きに来たアスランに面食らったのを思い出した。
そんな直接的に聞いてくる奴は初めてで。
自分の欲しい物を聞かれ、改めて考えてみるも、適当な物が思い浮かばなくて…。
その時俺は、少しの悪戯心や何やで、
『かわいい女の子。』
なんて答えて…。
それを聞いたアスランは数回瞬きを繰り返し、眉根を寄せ…
部屋に居たイザークには不謹慎だの何だのと怒鳴られて…
それを適当に流して居ると、アスランは少し考えた後…
『…分かった。』
と言って部屋から出ていった。
その時は何が分かったのか分からず、イザークを適当に宥め、今みたいにグラビア雑誌を見ていた。
そうしたら数時間後、先程の遣取りを忘れていた頃にアスランが部屋へとやって来て…
ツカツカと行儀良く歩いて来たアスランは、片腕に持っていた物を勢い良く此方へと差し出して…
『…っ今日だけだからな!』
その差し出された物と、顔を赤く染め、視線を僅かに外し言われたそれに、込み上げてくる笑いを抑えきれず口元を押さえ笑い声を堪えていたのを思い出す。
優等生のアスラン・ザラから貰ったのは、水着のおねーさま方の載ったグラビア雑誌だった。
アスランがコレを持って歩いて来た様を思い浮かべ、涙が浮かぶ程笑い転げたっけ…。
後から聞いた話しに因れば、ソレはミゲルに貰った物だったとか…。
俺へのプレゼントの事を考え込んでいたアスランに、話を聞いたミゲルが悪巫山戯で持たせたらしい。
ソレを律儀に持って来たアスランに、イザークは目を丸くし、憤慨して部屋から出て行って…
俺は腹を抱えて笑い転げていて…
そんな昔の事を思い出し…
知らず、口元に笑みが浮かんでいた。
それに気付き、僅かに苦笑を浮かべる。
「な〜に浸ってんの…俺は…。」
静かな室内に、その声は大きく響いて…
それに又、苦笑を浮かべる。
もう、見る気を無くした手の中の雑誌を閉じ、部屋の扉を振り返る。
其処には、誰も居ないけれど…。
「…アスラン…イザーク…」
その声は、一人きりの部屋に良く響いて…
「……ミゲル……ニコル…ラスティ……」
懐かしい者の名を口に乗せる…。
「…こんな日くらい、会いに来てもイイんじゃないの…?」
誰にともなく、呟く…
会える筈など…ありはしない…
分かっていて呟く自分は…
「…結構、粋狂者?…」
自分で言ってて、おかしくて…
「まあ…、一番会えそうなイザークの所へでも催促に行きますか…。」
一人きりの此処では、昔の思い出に引摺られてしまいそうで…
手近なイザークを道連れにしてやる。
キシ…
と、微かな軋みを立てベッドから抜け出す。
そういえば…
あの雑誌は何処へ行ったのだろう…
そんな事を考えながら、イザークの元へと向かう。
きっともう…
ソレは手元には無いのだろう…
end