小説T

□『永久の束縛』
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ザザ……と、波音だけが…




【永久の束縛】




赤く染まり始めた空が、海をも染める。

その中で、潮の満ち引きによって作られた白い波だけが、異質な物の様で…


まるで…自分のよう…


紅い中に浮かぶ、異質な白…

周りの潮によって
『創られたもの』…

周りの人間によって
『造られたモノ』…

でも、何時かはまた、その中に還っていく…

白くなった波は、何時の間にか、海の中へと…大気の中へと…


それと同じ様に、自分も…


造られた体でも…

朽ちる刻は…

皆、同じ…

そう思っても…


「…キラ…?…」


声が…


「…風邪、引くぞ…?春とはいえ、未だ寒いだろ…」


木の床を歩く、微かな足音…


「…キラ…?聞いているのか?…」


自分の横に歩み寄った君…

君は、何時ものように僕の世話を焼く…


変わらない…

ずっとずっと…


「…うん…」


座ったまま、君を見上げ微かに頷く。

「だったら、部屋に入るぞ?折角の料理が冷めるだろ…。」

君が、朝から作っていたもの。
二人だけしか居ないから、せめて此れくらいは…と、買ってきたケーキとシャンパン。
そして、簡単に作れる様な料理の数々。


誕生日だからと…


今日が自分の生まれた日だというのなら、この世に在る筈の無いモノが生まれた日…


それでも…


君が…

君が、嬉しそうに為ているから…



「誕生日…おめでとう…。」



君が…

そう言ってくれるから…



堪らなく…



「──…っキ、キラ…っ!?」


驚いた声を揚げた君を腕の中に…




「…ありがとう…」




小さく小さく呟く。


好きだったんだ、小さい頃は…。

意味等無くて、只々誕生日というだけで嬉しくて…


けれど、自分の生まれた意味を知ってしまって…


嬉しかった筈の其れが、何時からか…



それでも、君は…


昔と変わらず…

あの頃と変わらず…


『おめでとう』


って…


だから…


昔の様に、只々嬉しい誕生日に…



「…ずっと一緒に居て…」


ずっとずっと…


死ぬ、その刻まで…

自分が、無くなるその刻まで…


そうしたら、押し潰されないで居られるから…


自分の生まれた理由に…
 
 
今日のこの日に…


縋る様に伸ばした腕の中の君は…


「…ああ…。…ずっと…ずっと一緒に居よう…。」


腕の中でも、その顔に笑みを浮かべていて…


「───────…っ」



泣きそうになるじゃないか…


あったかくて、あったかくて…


離したくなくなる。


大好きで大好きで…


狂おしい程に…



ずっと、この時が続けばいい……



離したくない君を、ずっとずっとこの腕の中に──…




許されなくてもいい…





今日という日の為に

僕は、君を一生束縛する──…







end…

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