小説T
□『理由〜darling〜』
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「…なあイザーク…。」
カタカタカタ…というキーを叩く音に重なる声。
「…何だ。」
キーを打つ手を止める訳でもなく、その声の主ディアッカを見るでもなくイザークが問う。
「…会いに行かないの?…」
誰に…
とは、敢て言わずのそれに、カタ…とキーを打つ手が止まったのが分かった。
‥╋【理由〜darling〜】╋‥
だが…
「………………。」
何事も無かったかの様に、再開される文書の作成。
呼ばれた其れを無視し、画面に目を向けたまま手を動かすイザーク。
「…………はぁ…」
イザークのその態度に、ディアッカは溜息を吐き、部屋の壁に背を預ける。そしてそのまま、仕事を続けるイザークを眺め…
広い室内に、暫くイザークがキーボードを叩く音だけが響く。
規則正しい其れ。
暫く其れだけに耳を傾けていたが…
「…会いに行けばいいんじゃない?…」
静かな室内に、ポツリと漏らされたディアッカの言葉。
その言葉に、規則正しかった筈の其れが乱れ…
「─────…っ煩い!」
ディアッカのソレを、イザークはその一言で一蹴する。
「…………………。」
完全に止まった其れ。
それを、壁に凭れたまま見遣る。
「貴様は俺の仕事の邪魔をしに来たのか!ならば出ていけ!気が散るっ…!」
椅子から立ち上がったイザークが、語気も荒く吐き出すソレに、ディアッカは又小さく溜息を吐き…
「何時まで、そうしてるつもり…?仕事仕事で…偶には休むことも必要だろ…」
逢うことの叶わぬ相手ではないのだから…
そのディアッカの言葉に、イザークは、
「煩いっ…!…貴様には関係の無いことだ…!」
と、それさえも切って捨てる。
そんなイザークに、ディアッカは猶も言い募ろうとする…
「関係なくはないだろ…俺達は───…」
だが、そこ迄で、言葉を乗せようとしていた口を閉じる。
そして、何も言えず癖のある自分の髪を掻き上げる。
口を噤んだディアッカに、立ち上がっていたイザークは椅子にその身を戻す。
カタカタカタ…
と、再開されるそれに…
「………………。」
分かっていた筈だ…
他の誰でもない、今、目の前に居るイザーク自身が一番…
其れに、他人でしかない自分が口を挟む事こそが、無粋で…
一番会いたいと思っているのは、他の誰でもない、今目の前に居る、仏頂面の白服の隊長様なのだから…
「……言い過ぎた…。…でも、仕事も程々にしろよ…。」
もう、口を出す理由を持たず、凭れていた背を離し、部屋の入り口へと足を向ける。
「………………。」
相変わらず、何も言ってこないけれど…
部屋を出る寸前…
「…分かっている…。」
小さく微かに聞こえてきたそれに、部屋の扉が閉じた後、フッと顔に笑みを乗せる。
真面目過ぎるのだ、イザークも、アスランも…
だから、放っておけないのだ…
要らぬ世話迄焼いて…
「ホント…無器用なんだからな…」
誰が…、とは敢て口にせず、止まっていた歩を進める。
静かすぎる深夜の廊下
人は、何を想い行動する──…
───────…‥
「…………………。」
ディアッカの出て行った部屋。
其処に一人残され…
暫く何も言わず一点を見詰めていたが、其れを振切る様に、止まってしまっていた作業を再開させる。
言われる迄もなく分かっている…
分かっているからこそ…
頭の片隅を占めるのは───…
今、この手を動かしながら想うのは──…
「…──アスラン──…」
その者の名を口に乗せる…
だから…
争いの無い、平和な世界を築いてやる。
その世界でお前と共に生きていけるように…
今は只、その日を目指し自分の遣るべき事を成す。
いつの日か、お前と共に笑えるように…。
─end─