黒バス

□サプリメント
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 ピンポーン。
 玄関のチャイムが鳴り、黄瀬の意識がふいに目覚める。目を開けるとぼやけた天井が映っていたけれど、それがはっきりしてくるにつれて意識も覚醒していく。


(今何時っスか)
 携帯電話を見ると、デジタル時計が11時28分を指していた。あれから三時間弱経過していて、本当だったら今頃黒子と出かけているはずだった時間だ。
 そう考えたらまた空しくなってきて、寝返りを打つと枕に顔をうずめる。するとただでさえ鼻が詰まって息苦しかったのが、さらに息苦しくなったので数秒ともたずに顔を横に向ける。すると瞼が自然と落ちてきて再び眠りにつこうとする。
 起きていると体がだるいので、眠っていた方が楽になる。それに起きていても余計な事ばかり考えてしまうので、とにかく今は眠りにつきたかった。



 ピンポーン。


 それなのに先程から何度もチャイムが鳴っていて、鳴るたびに黄瀬の意識が呼び戻される。おかげでゆっくり寝ることが出来ない。誰だか分からないが、何度も鳴らして出ないんだからさっさと帰ってほしい。



 ピンポーン。
「…………」



 ピンポーン。
「………………」



 ピンポン、ピンポーン。
「ああもう!!しつこいっスね!!」



 急に大声を出したらその反動で喉が痛くなってせき込んだ。インターホンにイラついて大声を出すなんて、バカかもしれないと思っていたけれど本当にバカなのかもしれない。とりあえず咳が弱まってから、ベッドスタンドに置いてあったミネラルウォーターをゆっくり口に含む。
 その間もインターホンは鳴っていて、まったく鳴り止む気配がない。これはもうさっさと出て相手にお帰り願うのが一番みたいだ。


 黄瀬はベッドから降りて部屋を出るとゆっくり階段を降りていく。自分の部屋は暖房をつけていたけれど、他の部屋はつけていなかったので部屋を一歩出たら寒さが襲ってきた。
 なにか上着を一枚羽織ってくればよかったと後悔しながら玄関にたどり着くと、黄瀬はスニーカーに軽く足を突っ込んで、この迷惑な音を鳴らし続ける人物を確かめるべく玄関の扉を開けた。


「はいはーい」
「どうも」
「黒子っち!?」


 扉を開けたら、なんとそこには黒子がいた。寒そうに鼻を少し赤くして、首元のマフラーを押さえている。黒子は黄瀬の姿を認めると、両手で黄瀬の身体を押して家の中へと押し込み、自分も一緒に入っていく。
 室内も少し寒かったけれど外に比べると大分マシだ。扉が閉まって黄瀬の寒さが少し和らいだ。けれども今はそんなことはどうでもいい。なんでここに黒子がいるのか黄瀬には理解できなかった。


「黒子っちなんで……」
「やっぱり風邪でしたか」
「え?」
「黄瀬君の場合、仕事が入ったとしても意地でも僕に会いに来ようとするでしょう。それなのにメールに会えないって書いてたから何かあるって思ったんです。それでうちの先輩経由で笠松先輩に連絡取ったら、昨日の部活の時調子悪そうにしてたみたいだって教えてもらったんです」


 黒子の見事な推理に黄瀬は感動した。確かにモデルの仕事があったとしたら、日付が変わるギリギリになろうとも意地でも黒子に会いに行く。そんなことまで見透かされていて恥ずかしかったけれど少し嬉しかった。
 あと笠松のことだが、もう部活には来ていないからおそらく早川や中村辺りから聞いたのだろう。


「とりあえずおじゃまします。君も横になってないとツライでしょう」
「風邪うつるからダメっすよ」
 黒子に会えて嬉しいけれど、風邪がうつる可能性があるから近くに寄るのも今はやめてほしい。だから風邪と言わずに嘘をついたのに、これでは意味がない。


 黄瀬の言葉に黒子はムッとしたのか頬を少し膨らませる。それすらも黄瀬にはかわいく見えて今すぐ抱きしめたくなったけれど、すんでのところで我慢する。宙に浮かんで持て余した両腕を黒子に気付かれないようにゆっくりと下ろした。
「そこまでやわな鍛え方はしてません。それに君が出てきたってことは親御さん今いないんでしょう?」
「そうっス……」
 もう黒子には全部お見通しのようだ。風邪を引いていることは隠しようがないから、ここはそんなに大したことないと見せかけて早く帰ってもらおう。


「黒子っち、あのね……」
「黄瀬君が心配なので今日一日僕が看病します」
「へっ?」
 黒子のいきなりの提案に、黄瀬は素っ頓狂な声をあげた。


 
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