黒バス
□日常ライン
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「え……?」
放課後、赤司に呼び出されたので黒子が部室に行くと、いきなり言われたことに動揺して黒子は素っ頓狂な声を上げた。
赤司は練習メニューや予定表など色々な資料に目を通していたが、顔を上げて黒子の目を見た。
「聞こえなかったのか?お前を黄瀬の教育係につける」
「黄瀬君ってあの途中入部の彼ですか?」
同学年に黄瀬というすごい新入部員が入ったことは知っている。いきなり二軍に入り、その中でも群を抜いている。
そもそもモデルをやっていて元から有名なので、黒子は名前だけなら知っていた。
「ああ。来週から一軍にするからお前に任せる」
「すみません赤司君、僕が人にバスケ教えるなんて無理なんですけど」
「お前にそんなことは期待していないから大丈夫だよ」
赤司の言葉に胸がグサッとする。シュートもドリブルも素人同然なのは自分でも分かっている。けれども自分で言っといてなんだが正直傷付いた。
赤司は全く気にしていないのか、資料に目を戻すとそのまま話を続けた。
「いくら二年といっても途中入部だから新入部員扱いだし、雑務とか一軍のルールとか色々あるから教えてやってほしい」
「…………」
赤司にそう言われたが、正直黒子は乗り気ではなく返事をためらった。
黒子は何度か、黄瀬が放課後に残って練習しているところを見たことがある。途中入部だけれどもとても熱心で、才能に溢れている。そんな彼に教えられることなんて何もないし、黄瀬よりも弱い自分が教育係になるなんて正直断りたかった。
「テツヤ」
黒子が黙り込んでいたら、資料から顔を上げた赤司の眼光が突き刺さる。その有無も言わさぬ圧力を肌で感じ、黒子は溜め息をついた。
「……分かりました」
「じゃあよろしく頼むよ」
どう足掻いても、結局赤司の頼みは断ることはできないのだ。頼まれたなら頼まれたなりに精いっぱいやろうと黒子は決意した。
誰よりも弱い自分にバスケを教えることはできないけれど、バスケをする上で大事なことを教えられればいい、そう思った。