デュラ

□バレンタインの夜
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(寒っ……)
 左手にコンビニ袋を下げて、静雄はもうすぐ日付が変わりそうな池袋の空の下、家路へとついていた。トムやヴァローナと御飯を食べに行った帰り道、急にデザートが食べたくなったためコンビニに立ち寄ったのだ。二月半ばとはいえまだまだ気温は低く、吐く息が僅かに白い。静雄はいつもより少し早足で歩いていたが、急に立ち止まり白い息を大量に吐いた。
 頼りない街灯に照らされた道の先、そこにいる影が静雄の視界に映し出される。その人物を認識すると静雄は一歩ずつ影に近付いていく。
「臨也よお、何でこんな所にいるんだ?」
「何でって、それをわざわざ君に言わなきゃいけないわけ?」
 影――臨也もわざとらしく笑みを浮かべながら静雄に近付いていき、二人の距離が次第に縮まる。
「よし、今すぐ殺す。すぐ殺す!」
 そう言って臨也に近付いた途端、鼻先に何かを突き付けられた。反射的にナイフかと思ったが、よく見るとそれは可愛らしくラッピングされた小さな箱だった。
「……何だこれ」
「何って……チョコだけど」
 急に力が抜け思わず尋ねてしまった問いに、臨也は少し俯きながら答えた。そして急に顔を上げてまくし立てる。
「勘違いしないでよ! 賞味期限今日ってさっき気付いて。だけど夜にチョコ食べたら肌に悪いし、だからと言って捨てるのもあれだから、だったら嫌がらせとして君にあげればいいんじゃないかって思っただけだから!! 別にバレンタインだからシズちゃんにチョコあげるわけじゃないからね!!」
 一息にそう言い切った臨也は、ほんのり赤くなった顔を下に向けて胸を激しく上下させる。それを呆然と見つめていた静雄だったが、チョコを胸に押し付けられたのでとりあえず受けとる。
 静雄がチョコを手にしたのを確認すると、臨也は背を向けて全速力で静雄から離れる。そして街灯の当たらない暗闇に入った所で立ち止まり、振り返って静雄に人差し指を突き付ける。
「今日中に食べろよ! それでニキビ出来てみんなに笑われろ!」
 そしてまた走り出し、静雄の視界から完全に消え去った。
(何だったんだ、アイツ)
 臨也がいなくなった後、静雄は不審に思いつつもとりあえずラッピングの紙を右手で破って取り外す。そして現れた箱を何気なしに裏返しにすると、静雄は急に顔を赤らめて右手で口元を押さえた。
「あの馬鹿……」
 静雄の視線の先にあるのは箱に貼られたシール。
「賞味期限今日じゃねえし」
 そこに表示されている賞味期限はまだ先で、決して今日――2.14とは記載されていなかった。
 箱を表に返して蓋を開けると中にはトリュフが六個入っていた。静雄はその一つに手を伸ばし口の中に放り込む。
「ウマッ」
 口の中に広がる甘みに、寒空の下、道路の端っこで静雄はポツリと呟いた。

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