黒バス

□レオ姉さんの恋愛心情
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「男と付き合うのとかイヤじゃないの?」


 部活も終わった寮までの帰り道、私は征ちゃんに唐突に尋ねた。
 今日は朝から曇っていて気温も低かったけれど、暗くなるとさらに冷え込んでくる。十二月にも入ってコートとマフラーが手放せない季節になってきた。
 人通りのない閑静な住宅街を、儚く照らす街灯を頼りに二人で歩く。空はどんよりと曇っていて、いつもより暗く感じられる。これで月明かりが差していたり雪が降っていたりすると映画みたいにロマンチックになるのだが、現実ではそうはいかないみたい。


 いつもはレギュラーみんなで帰るんだけど、今日は私と征ちゃんの二人だけだ。
 監督と話があるからって征ちゃんはみんなを先に帰らせたけど、私だけは一緒に帰りたかったから残っていた。永吉と小太郎も残りたがっていたけれど、「恋人の邪魔するなんて野暮よ」と言ったら大人しく引き下がってくれた。少し冷や汗をかいていた気もするけれど、まあそこは気にしない。
 学校から男子寮まではほんの数分で着くんだけれど、それでも征ちゃんと二人きりってことが嬉しかった。


「どうしたんだ、いきなり」
 隣を歩いていた征ちゃんは、マフラーにうずめていた口元をあげて私を見上げた。その首の傾け具合がかわいくて、心の中で勝手に悶える。
「いきなりじゃないわよ。前から思ってたんだけど、征ちゃんって男と付き合うのに抵抗感とか嫌悪感とかないのかなーって思っただけ」
「お前と付き合ってるのに嫌とかあるわけないだろう」
「それはそうだけど……」
 征ちゃんはなんの躊躇いもなく答えたけれどそうじゃない。私が本当に聞きたいのはもっと別のことなんだけれど、それを直接聞くのは避けたかったからこんなことしか言えなかった。


「だって征ちゃん全然バイに見えなかったんだもん。私の勘って結構鋭いのに」
「別にバイって訳じゃない。ただ自然と好きになったのが玲央だっただけだ」
 いきなりの征ちゃんの言葉に思わず足が止まる。一歩前を行ってしまった征ちゃんは立ち止まると振り返った。


「僕はお前だから好きになった。それじゃ不満か?」
「そんなわけないじゃない!! もう征ちゃん大好き!!!!」
 誰もいないのをいいことに、道端の真ん中で征ちゃんに思いっきり抱きついた。すると腕の中にすっぽりとおさまる感触が伝わってきてすごく心地よかった。
 征ちゃんは小柄ってわけではないけれど、バスケ部でデカイやつばかり見ているから征ちゃんを見ているとそれだけで和む。
 けれども抱きしめるとやっぱり男の子なんだなって思う。パッと見ただけでは分からないけれど、バランスよく筋肉がついていて意外とがっしりしている。女の子みたいに柔らかくはないけれど、この感触がすごく好きだ。


「僕もだよ」
 そう言って征ちゃんは私の背中に腕をまわしてコートを少しだけ掴んだ。言葉はストレートだけど、少しためらうようにとったその行動がまたかわいくて、腕の力を強めた。
 風が吹いて来て寒かったけれど、二人でいれば暖かかった。





***


 付き合っていたかどうかまでは不明だけど、昔好きな男がいたのだろう――。
 そう思ったのは、征ちゃんと付き合ってしばらく経ってからだった。
 女の勘ってやつ?
 私と付き合うのにもキスするのにも抵抗とかないから、昔好きな男がいたんだなって何となく思った。でも昔の男の話なんて普通はしたくないだろうから、こっちからあえて聞かなかった。
 昔のことをいちいち詮索するつもりはないけれど、いつか話してくれる日がくればいいなってそう思っていた。



 そして、その男の存在を知ったのはWCの準決勝のことだった――。


***


 
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