黒バス

□桃色ヒーリング
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 体育館から教室棟へ至る通路を歩きながら、オレはため息をついた。
 今日は五月四日、ゴールデンウィークにもかかわらずうちの部活は練習だ。せっかくの休みに部活というだけでテンションが下がるのに、今日のオレはいつも以上にテンションが下がっていた。
 それもこれも全部あいつらのせいだ。朝からの練習風景を思い出し、オレはさっきより長くため息をつく。


 うちの部には一癖も二癖も厄介な連中がかなり揃っている。特に群を抜いているのが今年の二年だ。
 赤司は俺より年下かって思うくらい冷静で状況判断に優れているし、黒子は影薄いし下手だし、緑間はなんか変な占いグッズをいつも持ち歩いているし、青峰は相当なバスケバカで特に力をつけてきているし、紫原はお菓子ばっかり食べてるし、灰崎にいたっては練習をさぼるから手を焼いている。あと最近一軍に上がって来た黄瀬は、モデルだかなんだか知らないけれど無駄にキラキラしててウザい。


 確かに強いことは認めるけれど、どいつもこいつも先輩に対する礼儀がなっていない。そんな連中をまとめるのが主将であるオレの役割なんだが正直疲れがたまってくる。
 今日も朝から練習で色々大変だったのだが、あいつらの素行を思い出しているだけで腹が立ってくるから首を振って頭の中から払いのける。


 教室棟に入ると涼しい空気が一気に流れ込んできて、汗ばんだ身体に気持ちいい。そして廊下を歩いていると、見慣れた後ろ姿を見つけてオレのテンションは上がった。


「桃井ー」
「虹村主将」
 オレが呼びかけると桃井は立ち止まって振り返る。桃井の顔が目に入り、オレは自然と頬が緩むのを感じた。


 桃井は最近のオレの心の癒しだ。なかなかにハイレベルな女子生徒が集まってきている帝光中の中でも、桃井は群を抜いている。しかもバスケが好きだし詳しいから、話していて話題に事欠かない。
 こんなかわいい子が青峰の幼馴染だなんて世も末だ。はっきり言ってもったいない。オレによこせってくらいだ。


「来週練習試合やる相手校のデータすんげー見やすかった。いつもありがとな」
「いえ、これもマネージャーの仕事なんで」
「つーかGWなんだから女子はどっか出かけたりとかしねーのか? こんな男だらけのむさい練習なんて疲れるだろ」
「いえ全然。むしろGWに練習があるとみんなに会えるから嬉しいんです」
 桃井はそう言うと、クリップボードを胸元に抱えて笑う。動作がいちいちかわいくて、見ていてやっぱり和んでくる。


「なんで?」
「今日誕生日なんですけど、やっぱり当日に直接お祝いしてもらうと嬉しくなるんですよね」
「へー」


 何気なく言葉を返したが、桃井の言葉の意味を理解するのに十何秒も要した。頭の中で言葉の意味がある結論につながり、オレは桃井に向き直った。


「…………誕生日って誰が」
「私ですけど」
「………………今日なのか?」
「はい」


 桃井が頷くのを確認すると、オレの頭の中で即座に様々な思考が巡っていく。授業中やテスト中や、ましてや部活でもこんなに頭の回転が速くなったことはないだろう。


「ちょっと待ってろ!」
「え?」
「いいか、すぐ戻るからそこでじっとしてろ!!」
 オレは大声でそう言い残すと、桃井の返事も聞かずに一旦ロッカールームへ向けて走り出した。


 
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