黒バス

□弟・黄瀬涼太の受難
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「ちょっと姉ちゃん!なんでまだ家にいるんスか!?」


 日曜の昼下がり、オレはリビングのソファに座ってくつろいでいる姉ちゃんを見て驚いた。



「今日友達と出かけるから午前中に家出るって言ってたじゃないスか!!」
 オレが尋ねると姉ちゃんはファッション雑誌に向けていた視線を上げて一度だけこっちを見たが、またすぐ雑誌へと戻っていった。


「なんか友達に急用できたから予定キャンセルになった」
「えっ!?じゃあ一日中家いるんスか」
「何よー。なんか都合でも悪いの?」
「悪いというか……」
 はっきり言えないけど、姉ちゃんが家にいるとものすごく都合が悪い。
 さっさと出ていってほしいけれど理由を言ったらからかわれるに違いない。早くしないともうタイムリミットは近付いているのだ。


 姉ちゃんに自然と家から出てもらう方法を考えたけどなかなか思いつかない。
 オレが姉ちゃんの立場だったら適当に買い物にでも行かせて時間稼ぎをするけれど、オレが姉ちゃんにパシリなんかさせたら殴られるに違いない。
 普段頼まれごとをされるのは慣れているけど、いざ逆に頼みごとをしようとするとどうしていいのか分からない。


 しかもこのくつろぎモードの姉を動かすには絶対骨が折れる。出かけようと準備はしていたみたいだから服装はお出かけ用だけど、ソファに深く腰掛けて雑誌を読んでいるこの状態はまず立ち上がらせることが困難だ。
 少し手を伸ばせば届くであろうリモコンを取らせたり、冷蔵庫から飲み物持ってこさせたりなどと今までの経験は数知れず。
 そんなことを思い返していたらなんだか少し悲しくなってきた。



「それよりアンタ、そんなとこにいつまで突っ立ってんの。なんか私に用?」
「いや……別に」
 そう言いつつオレはゆっくりと姉に近付いて、とりあえず距離を置いて隣に座る。姉ちゃんはちらっとこっちを見たけれどもオレが何も言わないから興味なさげに視線を戻す。
 リビングにかけてある時計を見ると刻一刻とタイムリミットは近付いていた。ページを捲る音と時計の秒針の音がやけに響いて考えがまとまらない。
 どうしたらこの姉をそれとなく外へ連れ出すことができるのか考えても考えても出てこない。
 こうなったら正直に言って出かけてもらうしかない。理由を言ったらからかわれるに違いないけれど、このままだと姉とばったり遭遇させるよりはマシだ。


「あの!!姉ちゃ……」



 ピンポーン。




「げっ!!」
 今まさに話そうと切り出したら、絶妙なタイミングでチャイムが鳴って思わず変な声を出してしまった。


「誰?こんな時間に」
「誰っスかね。あ、オレ出てくるから」
 恐れていた出来事が起きた。姉ちゃんと鉢合わせさせるわけにはいかないから、とりあえずオレが先に出なくては。
 そう思って立ち上がったのに、あろうことかあの面倒くさがりな姉ちゃんが雑誌をテーブルに置くとオレより先に立ち上がって玄関へと向かう。


 普段はオレに行かせるくせに、なんで今日に限ってそんなことするんスか!!


「いいわよ、アンタは座ってなさい」
「えっ!?ちょっと待って姉ちゃん!」
 予想外の行動に呆気にとられていたら行動が出遅れた。慌てて後から追いかけたけれど、もう姉ちゃんは玄関の扉に手をかけていて今まさに開けようとしている所だった。


「はいはーい。どちら様ですかー」
 
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