黒バス

□Trick×Trick
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放課後の教室、忘れ物を取りに来た黄瀬は「きーちゃん」と名前を呼ばれるのが聞こえた。
こんな呼び方をするのは一人しかおらず、その彼女を思い浮かべながら振り返ると案の定そこには桃井が立っていた。桃井はにっこりと笑みを浮かべると黄瀬以外誰もいない教室にツカツカと入ってくる。
机の中から教科書を取り出すと、黄瀬はしゃがんだ状態から立ち上がる。すると桃井が真正面にやって来たので黄瀬は心臓がどくんと跳ねるのを感じた。
桃井は女子にしては背が高い方だが、黄瀬とはかなり身長差があるので並んで立つと頭のてっぺんまで見える。そして自然と桃井が見上げる形になるので、少し上目遣いになるのがかわいくて黄瀬は見るたびにドキドキするが、なるべく顔に出さないようにしている。黄瀬は落ち着かせるために、一度深呼吸した。


「どうしたんスか?」
「えっとね、トリック・オア・トリート!」
黄瀬が尋ねると、桃井は楽しそうに笑みを浮かべてそう唱えた。
その笑顔を見ているとまた鼓動が跳ねて、顔まで赤くなりそうになった。なんとかばれないように口元を押さえるとゆっくりと口を開いた。


「えーっと……何スか?」
「何って今日はハロウィンだよ?だからトリック・オア・トリート」


いや、それは十分分かってる。クラスの女子がやたらお菓子を交換していたし、紫原がいつも以上にお菓子をたくさんもらっていたし、街並みがハロウィン仕様になっていたから今日がハロウィンなのはもう知っている。


それにクラスの女子たちに悪ふざけで朝から散々言われて、さっきまでハロウィンこの野郎、とうんざりしていた。どれも特に心に響かないし、面倒くさかったから適当に流していた。
けれどもまさか桃井から言われるとは思っていなかった。しかも予想以上にやばい。
あれだけ言われてうんざりしていたのが嘘みたいに、桃井の言葉が胸に響く。
自分を見上げてくるつぶらな瞳、走っていたのか少し切れている呼吸。呪文が吐き出された唇は、身だしなみ程度に薄くリップクリームが塗られていた。


(ヤバすぎっスよ……!)


桃井の顔を直視することが出来なくなり、黄瀬はうつむいて視線をそらす。鏡を見なくても顔が赤くなっているのが手に取るように分かる。
心臓の音がやけにうるさいし、身体中の血液が沸騰しているみたいに熱い。



(なんなんスか、もう!!)
ふいに何かが切れる音が聞こえたような気がした。
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