鏡と虚像とその間


□◆ 第2話
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「――わああ。」
突如、自分の声が鳴り響いた。

それに驚くのも束の間に、次いで背中に衝撃と激痛が走る。
「っ痛…。」

埃っぽい空気と肺にかかった衝撃にむせ返った。

ガラガラと何かが転がる音が鼓膜を刺激し、その音の新鮮さに目を開けた。

壁と壁に阻まれた細長い空が見える。
灰白色の枠に囲まれた空は、抜けるような青だった。
別段、珍しい光景でもなんでもないが魅せられる。

色があり、音のある世界。

いつものことが、こんなにも安心する。

長い息と一緒に、張り詰めていた緊張がようやく吐き出されていくようだった。

「ジェクト、大丈夫?」
仰向けのジェクトの視界に、空を遮る形で不安気な顔をしたシェリルが映る。

「…シェリル。」
恐る恐る出した自分の声は、鼓膜を振動させて確かに聞こえた。
その感覚にジェクトは改めて安堵した。

「シェリルは、平気か?」
身体を起こしたジェクトに、シェリルは元気よく頷く。

「平気。真っ暗になった後は全然覚えてないんだけど、気付いたらここにいたよ。」
照れ隠しのように頭を掻いて苦笑した。

「そっか。」
安堵した。

多分、あの闇を体験せずに気を失ったのだろう。
その顔に恐怖に泣いた形跡もないことを見て、胸を撫で下ろした。

「ジェクト、本当に大丈夫?」
シェリルが心配した顔を近付けた。

彼女の琥珀色の瞳に自分の顔が映る。

「…だ、大丈夫だよ。」
声が少し震えて、その距離感に赤面した。

シェリルの長い髪が風に煽られて腕にかかる。
「……。」

妙に高まった心臓の鼓動が聞こえてしまうのではないかと、ひやひやしながらジェクトは徐ろに壁際に寄る。

急にどこかよそよそしいジェクトの様子に首を傾げながら、ぎこちなく立ち上がったジェクトにシェリルも続いた。

「ここに見覚えあるか?」
咳払いを一つして、ジェクトは話題を変えるように言った。

周囲を見渡す限り、路地とも呼べないような建物と建物の間。
陽のほとんど届かない狭い吹き溜まりには、紙屑や空き瓶が転がっていた

「うーん。よくある光景ではあるよね。」
裾に着いた土埃を払らい、それらを見渡してシェリルは言う。

「…確かに。」
ジェクトの応えに、『だよね。』とシェリルは同意して笑った。

それに釣られてではあったが、その時、ようやくジェクトの顔に笑みが灯った。
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