鏡と虚像とその間
□◆ 第1話
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噴水による水の演舞が一通り終わったところで、アコーディオンの演奏も止まった。
軽やかな拍手に次いで、ボールを回していた大道芸人は被っていた帽子を脱ぎ、ひっくり返して子供たちの前に差し出した。
さしずめ、見物料を求めているのだろう。
だが、そんなルールがあることを知らない子供達は、そこから鳩か何かが飛び出してくるのかといった具合の、期待した眼差しを向けていた。
ワクワクした瞳の前に水の音だけが響く。
間もなくして、何も起こらないことに口を尖らした観客達は、大道芸人の沈み行く気持ちを余所に、次の遊びに駆けて行った。
見物料を貰えないばかりか、思わぬブーイングを受けて、大道芸人はがっくりと肩を落としていた。
その様子に、お気の毒と心の中で呟く。
すると、不意に一人がこちらに顔を向けた。
まさか、気持ちが伝わってしまったのだろうか。
ジェクトは慌てて視線を反らせたが、遅かった。
2人組は表情を輝かせてジェクトの所に駆け寄ると、帽子の凹んだ面を上にして顔の前に差し出す。
「噴水で、見えなかったんだけど…。」
取り合えず、言い訳をしてみた。
ジェクトの言葉に2人組の表情が一気に曇る。
見物料を払うつもりはないのだが、こうも目の前で落ち込まれては、なんだか悪いことをしたみたいで後味が悪い。
徐に手を入れたポケットから、運がいいことにあめ玉を2つ見付けて、ジェクトはそれを去り際に帽子の中へ落とした。
「まぁ、頑張れよ。」
心持ち逃げるようにして、ジェクトは噴水広場を後にした。
恐らく、帽子の中を期待して覗き込んだ2人は激怒したことだろう。
何せ、入っていたのはあめ玉だったのだから。
(しばらく、ここは出入り禁止だな。)
後々、面倒なことになりそうな気がして、ジェクトはそう答えをだした。