鏡と虚像とその間


□◆ 第1話
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ヤドカリみたいな形の雲が、ゆったりと蒼い空を歩いていた。

その直ぐ下から、まるで波のように噴水の水が湧き上がった。
風に煽られて水しぶきが飛んできたが、乾いた暑さの中ではそれさえ心地好かった。

華やいでいく噴水に次いで、不意にアコーディオンの旋律が耳に届いた。

視線を向けた先に、アコーディオンに合わせて、掌サイズのボールをいくつも宙で回す大道芸人の2人組がいた。

物珍しさに集まった子供の前で、色とりどりのボールがアコーディオンの旋律に合わせて宙で踊る。

ベンチに座っていると、それは丁度よく視界に入った。

何気なく眺めていたが、ジェクトにしてみれば噴水の方が見応えがある。
それというのも、この場所を訪れればいつもその2人組がいて、いつも同じ音楽に同じ芸をやっている。
新技でも披露してくれない限り、感動はしばらく望めなさそうだった。
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