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□春も終わり 11'07'20
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二人で縁側に座り酒を交わしているとペースが何時もより一際早かったのだろうか、あっという間に空になり盃を床に置く

眺めていた桜からふと今更乍に気付き目線を鴆に向け、酒がなくなるとリクオは両手を腹部の前で交差させる




「そういやぁ鴆、今日は何しに来たんだ?まさか、酒を呑みに来た…なわけじゃねぇだろう。」

「呑み終えてから聞くってこたぁ、今頃気付いたってことか。俺りゃ桜より存在が小せぇってか?」

「…何外方向いてやがる。誰も言ってねぇし、そう思う時点で自分で認めてるだろ。」

「ハハッ、違いねぇ。今日来たのは総大将に頼まれた物を持って来たんだよ。で、帰る前に此処に来たってわけだ。」




口頭で負けてしまった鴆はついケラケラと一本やられたと笑ってしまい、不意にリクオの頭上に利き手を乗せていた。銀色のした柔らかな髪の触り心地が善く、何度か撫でれば立ち上がる。


風が羽織りの隙間を通り肩から落ちそうになる程の珍しい強い其れ。鴆は左手で肩から落ちぬよう掴み座っている相手の名を呼べば右手で顎に手を掛けていた。



「そんな深刻な顔してっと、他の奴等も心配してるぜ…若頭。」

「…お前にはよく見抜かれるな。それで俺の所に来たんだろ?」

「さて、どうだか。それこそ、さっきお前が言った認めてる事になるんじゃねぇのか?」



言われた言葉その儘返されたリクオは双眸丸めしてやられたと苦笑いをしていると、ふと視界が暗くなった。
見上げていた鴆の顔が近付き額同士が触れ合う。鼻先も当たるか当たらないかというこの至近距離に目を閉じることなくリクオは目先にいる相手を真っ直ぐ見る。

そんな視線に鴆も似た眼差しを送れば其処から言の葉を交わす事はなかった。交わす手段を鴆は少しの間奪い、解放した頃には風が弱くなっていた



口元を綻びリクオの様子が何時もの感覚に戻ると、安堵した鴆は何も言わず帰っていき利き手を肩の辺り迄上げヒラリと振る。そんな後ろ姿が消える迄ぼんやり見ていたリクオは重い腰を上げ空になっている盃や瓶を懐で持ち、安堵したのか酒が回りだしたのか、其れとも…
欠伸を噛み締め乍部屋へと戻って行った






-END-
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