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□年はじめ 11'01'01
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もうすぐリクオの家が見える頃合いになると鴆が口を開ける。寒さを物語るように其処からは息が白く映し出される。
「リクオ、わりぃが俺は戻るぜ。まだ仕事が片付いちゃいねぇからよ。」
「まだだったのか、お前も大変だな。頑張れよ…頭領。」
「其の呼び名…お前から言われるのはなんか慣れねぇんだよな。」
「ならやっぱ鴆、だ。俺も言いやすい。」
互いにハモるように笑いが出ると静かな道に小さな笑い声が響き、鴆が薬師一派のところへ戻ろうと反転した時リクオが声を掛ける。
まだ二人の距離はさほど遠退いてはおらず足音立てず癖か、抜き足で鴆の背後に近付き顔を見ようとはせず耳元に顔を寄せる。
小さめな声でリクオが呟いた。だがその時丁度風が吹き込み木々がガサガサと擦れ合う音が混じる。
「ーー…いよ。」
「…ん?わりぃ、聞こえずらかった。何て言ったんだ、リクオ?」
「さて…な。じゃ、気をつけて帰れよ。」
鴆が振り返り再度聞こうとしたがリクオは何処か照れていたのか、仏頂面な感じで背を向けていた。
その儘これ以上催促されぬ前にリクオはその場を後にした。鴆はといえば暫し考え込むが木枯らしが吹くと身震いし、先に帰ろうと反対方面に歩いて行った。
帰り道、鴆は神社でリクオに言えなかった事を若干悔やんでか後頭部を掻き乍俯き加減で歩む。
反対にリクオは、伝えたかった言葉を掛けたのに聞こえなかったことが少し安藤し、其の矛盾さに苦笑いしか浮かばなかった。
互いの言の葉は伝わるのは未だ先になりそうだ。
-END-