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□月夜の静けさ 10'10'18
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目的地である鴆の処に辿り着くといつもなら閉めてある障子が開いているのが見える。リクオは器用に木の枝を足場にして部屋へと侵入する。





「鴆も月を見ていたのかい?」

「おぉ、リクオじゃねぇの。相変わらず急に現れるもんだぁ。」

「来たいから来た、それで十分だろ。」




たわいないやり取りをしながら持って来た甘酒と重箱を差し出す。重箱の蓋を開け中に綺麗に並べ置かれている団子と、色合いを考えてか紅葉の葉が片隅に添えられている。

鴆は甘酒が入った徳利を手にすると始めの一杯をリクオに注ぐ。甘く香る其れが甘酒独特さを漂わせ、次いで自分にも注げば偶々二人の目線が合い悟るかのように同時に呑む。普段呑む酒とはやはり違い咥内に甘味が残り酒ではないのではと錯覚させる程二人からすれば呑みやすい物であった。





「今日が十五夜だったとはな。道理で良い満月だ。」

「なんだ、知らなかったのかい?」

「そういうリクオは知ってたのかよ。」






昼間のやりとりがなければ気にもしなかったリクオはそれ以上返答することもなく重箱にある団子を反対の手で食べ、隣にいる鴆から目線を外せば徐に月を眺める。


そんな仕草だけでリクオの考えが大体把握する鴆も何も言わず再び甘酒を注ぎ喉を潤す。

静かな夜に漢二人とは淋しいものじゃないかと思うものの、互いに気は楽で今の雰囲気は嫌いではない。どちらも此れを愉しむように時を過ごす。







「そういやぁこの酒と団子、勝手に持ってきたんじゃねぇか?」

「んぁ?…そうだけど、別にいいだろ。一つぐらい減っても変わりゃしねぇさ。」

「いや、そうじゃなくてだな…。此処、団子以外に何か入れるつもりじゃなかったのか?流石にこれだけじゃ侘しいだろ。」

「……言われてみりゃ。」







きょとんと鴆が指差す重箱を覗き見るリクオの姿に鴆はついプッと含み笑いをしてしまった。それが気に喰わなかったのかリクオは鴆から甘酒を奪うと一人で呑もうとしだす。

そんな姿を横目で見た鴆はまたつい笑いそうになったがどうにか押し堪え、団子を手にして食べる。




一夜もまた早々と過ぎていく




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