文庫

□生誕 10'09'20
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暦を見てふと気付く。あー、明日はリクオの誕生日。妖怪と人間との祝い方に差ほど違いはない。敢えて言うなればプレゼントという渡し物。


何を渡していいか考える鴆に知らぬうちに眉間に皺が寄っている。仕事をしながらの考え事は珍しく、動いていた筆が止まる。それ程リクオの事を想い考えていた。





時刻はあっという間に流れ陽が落ちて涼しくなり夜中へと変わる。障子が開く音と共にリクオが部屋へと脚を踏み入る。

床一面に達筆に掛かれた紙が散らばっていると、下手に片付けず踏まぬようにして空いてた隅に腰を下ろす。





「何だ、この散らかり様は。…忙しかったのか?」

「ん、あぁ。色々考え事しちまってよ、後で片付けるつもりだったんだが。」

「そうか…。あ、休憩には持って来いの良い酒が手に入ったんだぜ、じじぃから貰ったけどよ。…ぷれぜんと、とか言ってたな。」




片手に持って来た酒瓶を目の前に置けば詮を開けて杯を鴆に渡す。呑めば少しは楽になるだろう等考え酒を注いでいく。

リクオの片言さにプレゼントというものにやはり執着がなかった様子に見えると、鴆はつい小さく含み笑いをしてしまう。頂いた酒を呑むと次と促す様に酒瓶をリクオから奪い杯に注ぐ。


何か言いたそうな鴆の姿をリクオは直ぐ見抜く。杯を鴆の前に差し出し注いで欲しいと言わんばかりな様子で。



「…まだその考え事ってのは解決してねぇようだな。」

「今日中に決めたかったんだが、仕方ねぇ。……っと。」

「……‥っ?!」



杯に注がれた酒を呑んだ瞬間鴆に手を払われ唇が重なる。酒の味が鼻に掛かりながら始めからくる深い口づけに舌がより絡み、長い間のように感じられ漸く鴆が顔を離していき視野の端で時計が見え深夜を回っているのに気が付く。


深く呼吸をして息を整えるリクオを目の前に、鴆はリクオの片方の肩口に頭を乗せ申し訳ないような何時もとは明らかに異なる控えめな口調で。





「今日、お前の誕生日なんだろ?人間の間じゃプレゼントって言って、何か記念になるような物とかあげてるみてぇでよ。」

「……それで?」

「お前に何あげていいのかサッパリだった。酒は普段から呑むし、此れと言って欲しいってのも聞いた事なかったしよ。だから、その…用意できなかった。」

「……‥。そんなに、こうなるまで俺の事考えてくれてたのかぃ?嬉しいねぇ、其処まで想ってくれてるなんてよ。別に貰う貰わないの問題じゃねぇだろ?考えてくれてただけで俺は満足だ。」

「リクオ…、有難うよ。」




顔を上げた鴆にリクオが頬に唇を宛てる。 己が掛けた言葉に後から少し照れ臭くなると、鴆から目線を外し誤魔化すように転がった杯を手にして一人注いで呑む。







後から鴆が小さな物だがと苦笑い混じりにリクオに渡したお守り。幼少の頃から持っていたらしいがリクオに持っていてほしいと言い、リクオの首にそっと掛けた。






-END-

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