婆沙羅

□両刀な彼女
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仕事を終え、携帯を開くと新着メールが一件。内容は友人から飲み会のお誘いだった。

約束の時間はとうに過ぎていたけど場所はメンバーの家だし、一応顔だけは出そうと向かうと、凄い事になっていた。





鍵の掛かっていない玄関から続く廊下を、不用心だと思いながら抜けて真っ暗なリビングへ入る。
真っ先に目に入ったのは、月明かりに照らされながら窓際で一人グラスを傾ける姿だった。


「あぁ〜また随分と飲んだね・・・これって結局俺様が片付ける事になるじゃん」

「大丈夫。片付けは皆にさせる」


俺がボソッと呟いたのを拾った彼女――月城はこの家の主だ。周りには缶やら瓶やらおつまみの袋やらが足の踏み場もないほど散乱している。
几帳面な彼女にしては随分と雑な扱い。この時間に一人だけというのもおかしい。

頭をよぎった考えをそのまま述べる。


「もしかして飲み比べでもした?」

「うん。言い出しっぺは元親と政宗。最後まで残った奴は負けた奴を好きなようにしていいって」


やっぱりか。自分の予想通り過ぎて笑える。
てかなんでそんな賞品をつけたんだ。月城が物凄く酒に強い上に負けず嫌いなの知ってるくせに。
今まで月城に勝った人を俺は見た事がない。


「ムキにならないで途中で適当に終わらせればいいのに。それにしてもすごいお酒の匂い・・・明日仕事大丈夫なの?」


色々踏まないように足で退けながら月城の側に寄る。
開きっぱなしの窓からやっと冷たくなってきた風が入ってきた。


「明日休み。そういやその辺に、」


月城の言葉に顔を上げた時

ぐにゅり。

ん?何か柔らかいものを踏んだような・・・・
恐る恐る足元を見てみると――


「うわっ!何これ、って旦那!?」

「お、お館様ぁ・・・・・・ふみゅぅ」


踏んでしまったのは真田の旦那だった。
寝言を言うものの起きる様子はない。てか旦那、どんな夢見てるのさ・・・


「あーもう踏んじゃったか。その辺いっぱい居るよ」


よく見てみると、大の字で寝ているのは長曾我部元親、緑のクッションに顔を埋めているのは毛利元就だった。

別の方に目を向けると、酒瓶を枕にして前田慶次が寝てた。その近くに転がってんのは伊達政宗で、壁に寄りかかってるのは片倉小十郎のようだ。
この人まで飲んだのか。


「随分と豪華な面子が集まったのね。この人達は明日」

「全員休みだとか。しかもここに泊まってくって。じゃなかったらこんな飲まないだろうけど。・・・ったく、ならもっとお酒買ってこいってんだ。楽しみにしてたの飲まれちゃったよ」


と言いつつ新しい瓶を手繰り寄せて空ける月城にまだ飲むのかよっ!と心の中でだけ突っ込んだ。
口に出すと瓶とか缶とかが飛んでくるからねこれ。(過去に経験済み)

とりあえず俺は、テーブルの上にあったお皿やコップを流しに運ぶ。
その間も月城はずっと飲んでいた。周りの人間が酔い潰れるほど飲んだにも拘らずまだ飲むとは。


「月城、いい加減にしないと体壊すよ」

「ん・・・これで最後。佐助もどう?」

「じゃあ少し貰おうかな」



俺が頷くと月城は申し訳程度にゴミを退けた。
俺は食器棚から新しくコップを取り出し、月城の隣に座る。外からの気持ちいい風が、俺と月城の髪を揺らした。

瓶を離さないからコップを差し出すと月城が注いでくれる。月城にお酌して貰えるとは・・・普段は滅多にしないのに。
驚きと共に口に含んだ酒は少々強く、喉を焼いて流れ落ちた。


「美味い。うん、たまにはこういうのもいいかも」

「そう?飲み比べしたいって言えば皆いつでも喜んでやると思うけど」

「いや、こうやってゆっくり飲む事がね。そういやさ、何で飲み比べする事になったの?」

「ん?」


空ばかりを眺め風を受ける月城の横顔に問いかける。
ゆったりとした動作で振り返り緩く首を傾げた月城。どうやら本格的に酔っているようだ。


「だって月城、あまり好きじゃないでしょ飲み比べ。毎回凄く拒絶するし」

「あぁ、そういう事。確か・・・」


明らかに回転が遅い頭でも解るよう一から説明すると、月城少しずつ思い出すように話し始めた。

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