婆沙羅
□秘すれば花
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「あっ!」
隣の奴に倣って空を見ると白くて小さなもんが舞っていた。
「雪か」
「んー多分風花かな」
「かざばな?」
肩を並べて歩く奴、月城が言うには、山に降った雪が風に飛ばされてくる事なんだそうだ。他にも、小雪がちらつく事もそう言うらしい。
道理で寒いわけだ。
そんな寒い中俺らは何してんのかっつーと、買い物に来ていた。
最寄の駅から3つほど離れたこの辺は、取り扱うものから規模の大小まで様々な店がある。
小さい頃から行動を共にしてきた俺達は、成長する毎に行動範囲も広がり今ではこの辺りに来るのが多い。
端から見りゃデートでしかないが、そんなつもりは互いにない。
清く正しい幼馴染み
これが一番しっくり来る言葉だ。
この関係を好ましく思う一方、俺は物足りなさと不満を感じることもある。どうやら好きなんだ、と気付いたのはいつ頃だったか・・・
少なくとも1年以上は経ってる筈だ。
「うー耳が痛いよー」
ちぎれる〜という月城の耳は真っ赤でとても辛そうだ。
丁度小腹も空いたことだし、と目についた喫茶店に入った。
テーブルに案内され、俺はカツサンドとカフェオレを、月城は色々と迷った末チーズケーキとミルクティーを注文した。
「こんなに寒くなるとは思ってなかったよ」
おかげで手袋をしてこなかったらしい月城は手を擦り合わせながら息を吹きかける。
あまりにも痛々しくて見てられなかった俺はそっと月城の手をとった。
元々体温が高い上、ずっとポケットに入れてた俺の手はもちろん温かく、小さな月城の手をすっぽりと覆う。
外の温度を切り取ってきたかのような冷たさに、今更ながら月城が冷え症なのを思い出した。
「はぁ…元親の手暖かい」
「お前の手が冷てぇだけだ」
「そう?」
自然と絡む指先からじわりと体温が共有される。
何だか照れ臭くて、手から目を逸らそうと顔をあげると嬉しそうな月城。
「な、何だよ」
「いやさ、こうしてるとまるで」
「お待たせいたしましたー」
店員の声に慌てて手を離す。
続きを聞きたいような、耳を塞ぎたいような何とも言えない気分を味わっていると、目の前に出される料理に上から降ってくる言葉。
「いやーお熱いねぇ、長曾我部の旦那と月城ちゃん」
「なっ、猿飛!?」
「佐助君のバイト先ってココだったんだ」
まさかの同級生の登場とさっきのを見られてたのとで俺は茹でたタコ状態。
月城はというと少し照れつつも楽しそうに猿飛と話している。
なんだかモヤモヤとしたもんが脳内を侵蝕した。なんて名前なのかは知ってたが、理解した途端とんでもない事をやらかしそうで必死に分からない振りして自分を抑える。
「じゃ、俺様は仕事中だからここらで退散っと」
「じゃあね〜」
笑顔で見送る月城に憮然とした顔をしてると、猿飛がこそっと耳打ちしてきた。
「スッゲー怖い顔してるよアンタ」
「っ!」
バッと振り返れば後ろ手にヒラヒラと手を振っている。
その姿は「月城ちゃんは俺のもの」と言っているようにも「俺は狙ってないから安心して」ともとれた。
きっと後者だろうと思い込むことにする。
いやでも月城が猿飛のことを好きだって可能性も・・・・・・
「元親ー食べないの?」
「あ?お、おぅ」
あまりに深く考え過ぎてて結構時間が経っていたようだ。
心配そうに覗き込んできた月城の顔に心臓が早鐘を打つ。
お、落ち着くんだ俺!
カフェオレを口に含み、カツサンドを咀嚼している内に平常心を取り戻す。ついでに暖まってきて知らない間に強張ってた身体も解れた。
そうなればいつも通り他愛の無い話に花を咲かせる。なんてことの無い日常風景だが俺にとって幸せの時。
ゆったりと、穏やかに過ぎていった。
会計はそれぞれ払うのが俺達の習慣。
支払いを終えて店から出ると太陽が半分近く隠れていた。あたりは暗く、駅へ向かう道は少々混雑していた。
俺はふと、隣を歩く月城の手を掴んで自分のコートのポケットへ突っ込む。
「ど、どうしたの急に」
「こうすりゃはぐれねぇし暖けぇだろ?」
しばらくぽかんとしていた月城だがすぐに微笑む。
俺も自然と出た笑みを返して、駅へと歩き出した。
実は手を繋ぐための口実というのは秘するが花、だろう。