婆沙羅

□狐の婿入り
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明るい空からぱらぱらと、徐々に激しさを増して雫が落ちてくる。

そんな中開け放たれた窓の枠に腰掛けた女が一人。気怠げに手にした煙管を咥え、特に何をする訳でもなく、ただ外を眺めていた。




トタトタと、軽い規則的な足音が近づいてくる。それは部屋の前で止まり、襖を引いた。



「・・・狐の嫁入りかと思ったら婿入りだったとはねぇ」



入り口に立っている者を見て女は口角を吊り上げた。

無遠慮に入ってきたのは銀糸を思わせる硬質そうな髪の男で、名を三成という。
不機嫌そうな面持ちで傍に座するのを引き上げた片足を抱えながら観察した。

その視線を睨み返しながら三成は口を開く。



「月城、覚悟は決まったか?」

「覚悟?はて、何の事かねぇ」

「貴様っ・・・はぐらかす気か」



掴みかかる勢いの三成など何処吹く風でふぅと息を吐き出す。紫煙がゆるりと昇っていくのを目で追いながら膝の上に肘をついた。

言い募ろうとした三成に月城は一瞥くれてやることで黙らせる。別に睨んだ訳ではないのだが迫力に気圧されてしまったのだ。



「佐和山の。私は散々言ってきたがお前にも三河のにもつく気はない。常々中立だと、」

「承知の上でだ。私の許へ来い」

「断る。面倒事が嫌いなんだ」



雁首を灰皿に当てて灰を落とす。カツンと澄んだ音が響き少しだけ澱んだ空気が薄まった。

しかしそれも一瞬の事で、お互いに譲ることなく意見を通そうとして暗雲が立ち込める。




雨垂れの音と煙草の残り香だけが漂う。そんな中三成が突然立ち上がり月城との距離を詰めた。

一歩踏み込んで自分の唇を月城のそれに重ね合わせる。

目を瞠る月城に無言で背を向けた三成は部屋から出る寸前吐き捨てるように呟いた。



「私は貴様を手に入れる。他の誰にも渡さない」



そのまま部屋を出て行った三成を呆気にとられたまま見送った月城は、言葉を何度か反芻して目を細めた。



「佐和山の狐は分かって言ってるのかねぇ」



その感情にどんな名前がつくのか・・・・・・



いつの間にか広がっていた青空が先の未来を表しているようで、退屈せずに済みそうだと笑いながら再び煙管に火を灯した。





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