婆沙羅
□貴女は腕の中で空を仰ぐ
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今回の戦、予想以上に苦戦していた。
ただでさえ上杉軍との合戦後に奇襲をかけられ、兵が浮き足立っている。
そして圧倒的な兵力差。佐助ら忍隊を用いても簡単に覆せるものではない。
だが、退くわけにはいかない。もうすぐで策は成る。それまで耐えなければ。
そして、この戦が終わったら己の傍らで一緒に戦う愛しい貴女にこの想いを告げよう。
嫌な予感はただの思い過ごし。
誰よりも強く美しい貴女が死ぬなどありえない―――
どれくらいの時間が経ったのだろう。ただ槍を振るう自分には、時間の感覚が失せていた。
燦々と輝く太陽の位置を見る限りもうそろそろ作戦が始まる頃だろう。
すると真田忍隊の1人が報告に来た。
「予定通りに開始するとの由。長からの伝言『もう少しでそっちに行くから』」
「分かった。引き続き何かあったら報告を」
「御意」
そういって消える忍。
あと少しの辛抱だ。後方に視線を遣れば貴女が双剣を振るっていた。大丈夫、彼女が死ぬわけがない。
しばらくすると敵の動きに不自然さが出てきた。どうやら事がうまく運んだらしい。
そうなれば我が武田軍が形勢逆転。未だに抵抗する者あれど大半が戦意喪失。勝敗が決するのも時間の問題だろう。
そう考えていた矢先、敵が撤退を始め、本陣の方から勝ち鬨が上がった。
これで武田軍の勝利だ。
無事危機を乗り越えられた事に安堵の息をつくと、突然背中に悪寒が走った。まさか・・・
急いで振り返ると、目に入ったのは彼女の体が傾ぐ姿だった。
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