婆沙羅

□貴方の腕の中で空を仰ぐ
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今回の戦は正直言ってつらい状況下にある。

上杉軍との戦帰りに奇襲をかけられた上、敵軍の兵数は我が武田軍の現在動ける兵数の約3倍。どこまで戦えるものか・・・・・・



「うわあぁぁ!!」



叫びながら向かってくる足軽の槍を受け流し、愛刀を首に叩き込む。吹き出た血を軽く身を捩って避けようとしたが、背後から迫ってきた殺気に対応した為半分以上浴びてしまった。



「はぁ・・・」



右の刀で後ろの足軽を、左の刀で突っ込んできた足軽を斬る。足元には屍の山ができそうだ。
鉄の匂いと腐臭が鼻をつく。赤が基本の武田軍の中で目立つ、白を基調とした私の服はほとんどを赤が占めてしまった。あぁ、帰ったら新調しなきゃ駄目だな、これ。

軽く手を振って血と脂を落とす。気を付けないと刀までも使えなくなってしまいそうだ。



「うおぉぉぉーーーー!!みぃぃなあぁぁぎぃぃるぅぅぁぁ!!!」



十分に離れているのに耳鳴りがしそうな声で叫んでいるのは私の主である真田幸村様。幼少の頃より仕えているがあまり変化が無いというか・・・まぁそんな純粋さがあの人の良さでもあるのだが。
目を向ければ2槍を振り回している幸村様。いつもと変わらない様に見えるがさすがに多少精彩を欠いている。

空を仰げばどこまでも澄んだ蒼。もうそろそろ忍隊による策が成る頃だろう。それまでは何があってもここを突破されてはいけない。


私は刀を握り直し、敵陣に切り込んでいった。










「ん・・・?」



敵軍の動きが不自然なものに変わる。どうやら無事に事が進んだようだ。
相手が浮き足立っているならば、統制が取れていて基礎的な能力が高い我が軍で兵数差などどうにでもなる。



「状況は覆された!勝機は我らが武田軍にあり!!」



声を張り上げればあちこちから返ってくる雄叫び。士気が一気に上がる。
反撃に出た武田軍。しばらく刀を振るっていると勝鬨が上がり、敵が撤退を始めた。これで終わりだ。

その時――



「久蔵の仇ぃーー!!」



こっちに向かってくる3人の足軽。
何度かこういった事を体験している私は自分の身を守る為、息の根を止めるつもりで腕を動かす。
1歩踏み込んでまず左で1人、右で1人を突く。素早く左の刀を自分に引き寄せ最後の1人の槍を弾こうとした。



・・・どうやら、自分が思っていた以上に体は疲れていたらしい。
弾く前に刃先が自分の左胸に吸い込まれていく。体に灼熱が駆け抜けていくのに中心が冷えきっていて何とも言えない感覚が突き抜けた。



「ぐっ・・・」



先に倒れたのは足軽の方。右の刀が喉に突き刺さっている。咄嗟に動かしていたけどちゃんと狙い通りだったようで安心した。
重力に従い後ろに倒れていく足軽。その手にはしっかり槍の柄が握られていて、必然的に胸から抜けた。

一気に込み上げる鉄の味。流れ出る力。体が傾ぐのが分かったけど自分ではどうしようもなかった。



「月城っ!!」



体が完全に地に付く前、誰かの逞しい腕に抱き留める。重くてしょうがない瞼をどうにか持ち上げ確認すると、主である幸村様だった。

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