婆沙羅

□落葉
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大分風が冷たくなってきたけど、日差しがある分あまり寒さを感じない今日。



「おーい、姫さ〜ん」



俺は今、大将の娘の月城姫を捜しまわっていた。・・・普段生活している城で。
あれー俺様忍の筈なんだけどなー。真田忍隊の長だった気がするんだけどなー。大将とか旦那とか姫さんの母親じゃないんだけどなー。

そんな事を思いながら姫さんが行きそうな場所を捜す。旦那とか大将の所には居なかったし、厨【くりや:現在でいう台所】にも居なかった。
姫さんの部屋はもぬけの殻。



「ホント、何処行ったんだよ」



事の始まりは一刻前。旦那のおやつの後片付け(俺様忍・・・)をしてた時に、姫さん付きの女中であるお千代さんに会った。



「あら猿飛様、月城様と一緒だったんじゃないですか?」



湯呑みの数を見てそう思ったらしい。
持ってた湯呑みは旦那が使った一つだけ。俺は基本的に飲まないし。

今日は姫さんとはお茶していない。てかまだ一度も会っていない。そう話すとお千代さんは困ったような表情を浮かべた。



「だとすると・・・・・・月城様のお姿が一刻ほど見えないのですが・・・」

「それ本当?」

「私が嘘をつくとお思いですか!?」

「冗談だってー。・・・俺様の方で捜してみるから」



お千代さんは姫さんが小さい頃から仕えているから心配なんでしょ。そういう俺も何かあったんじゃないかと少しの焦燥が生まれた。





あれからいくつか見当をつけて捜してみるも見つからない。
結構時間も経ってるし戻ってきてるかもと思って姫さんの部屋に行ってみるが居ない。

ホント何処行ったんだあの姫さんは。


今何刻ぐらいだろうと庭にでると、楓の木の上に人影が見えた。
何処の忍だ?と苦無に手を伸ばしたその時。



ザアァァ――

一際強い風が吹き、楓の枝を揺らす。
そのお陰で木の上に居た人物が誰なのか分かった俺は、ゆっくりと木の下に足を進めた。



「・・・・・・姫さん、そこで何やってんのさ」

「いやー紅葉が綺麗だったから」

「答えになってないよそれ」



そこに居たのは、ずっと捜してた月城姫だった。
大将の娘であり、旦那と共に育っている所為かそこらのお姫様とは違うというか・・・まぁはっきり言ってしまえば御転婆娘だ。だから、落ちたら骨の一本や二本では済まなそうな高さまで事も無げに登ってしまう。

俺はするすると木を登って隣に座ってからもう一度尋ねた。



「こんな所で何やってんの?」

「んー紅葉見てるの」



足をプラプラさせながら話す姫さん。俺としてはいつ落ちてしまうのかとハラハラしてやめて欲しいんだけど。



「こんな所で見なくてもいいでしょ」

「そうなんだけど・・・。出来るだけ近くで見たくて」



微笑む姫さんは一見楽しそうだ。
でも、付き合いの長い俺には瞳の奥に哀愁が漂っているのが見て取れる。
今は何も言わないほうがいいと判断した俺は、姫さんと同じように紅葉を眺めた。

この木は楓だから葉は赤く染まっている。
少し視線を外すと城下が一望できた。そこは赤だけでなく黄や緑など色鮮やかに全体が色付いていて、とても見事な景色だった。



「すご・・・綺麗・・・・・・」



俺の口から自然と言葉が出ていた。
しかし姫さんから返ってきた言葉は予想外のもので。



「そうだね。・・・でも」

「でも?」

「悲しい・・・」



意味が分からなかった。


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