婆沙羅

□夢の続き
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例年に比べ涼しく感じる今日。私の住む町で伝統行事が行われる運びとなった。


毎年開催されているその祭りは、元は日頃の成果を仕える主である総大将に披露するものだった。時を経るにつれて規模は小さくなったが、古式ゆかしい神事は国の重要無形民俗文化財に指定されている。

今年は震災による被害を考慮して開催が危ぶまれたが、市長や執行委員会が尽力したお蔭で無事開かれる事となった。


城跡にある神社の境内で出陣式が行われ、その後今なお残る大手門より甲冑や陣羽織姿の騎馬武者、足軽などが列を成して市街地を練り歩く。私が門から続く沿道に着く頃には大勢の見物客が今か今かと待ち受けていた。

どうにか隙間を見つけて体をねじ込み最前列を確保する。小さい頃はただの祭りとしてしか見ていなかったが、マイブームが戦国武将である現在は興奮する事この上ない。

家から拝借してきたカメラをムービーモードに設定して構えるとあちこちで拍手が起きる。ついに出陣だ。


甲冑を身に纏い、旗を背負い乗馬する姿は堂々としていて感嘆のため息が出る。最初の騎馬隊の後は槍や弓、鉄砲を持った人や旗を持った人達が続く。螺役(かいやく)と呼ばれる法螺貝を持った人達が馬上で吹いてみせた時は叫ぶのを堪えるのに必死になったほど格好良かった。


時折ファインダーを覗きながら見物していると幼い子供が目に映った。これも毎年の事だが、2,3人ほど小学生以下の子供が行列に参加する。小さいながらも背筋を伸ばして精一杯頑張っている姿は微笑を誘う。

頬を緩ませながら次の騎馬武者を見たとき、目が離せなくなった。


三日月の様な大きな前立に黒塗りの具足、右の目は刀の鍔らしきもので覆われている。鎧の上から蒼い陣羽織を着ていてあまり見ない格好だ。年は若く、私と同じくらいの男子。口角を上げて余裕そうに笑っている。

その人と不意に視線が交わった。驚きに見開かれる左目が何故かとても懐かしく感じる。時が止まった様に周りの音が聞こえなくなって、自分の鼓動だけがトクリと跳ねた。


実際には数秒間の出来事で、すぐに彼は遠ざかっていく。でも私の脳裏にしっかりと焼きついて、行列が全て通り過ぎてもしばらくはその場から動けなかった。










呆けたまま家に帰っても、蒼い騎馬武者さん(仮)の事がずっと頭から離れない。

懐かしさを感じる彼と何処かで会ったのかなぁ?記憶の棚を漁ってみるが心当たりが無い。幼稚園が同じだった?アルバムを引っ張り出すが載っていない。もしかして同じ高校?だとしたら見かけたことがあるのかも知れない。でもそしたら懐かしいとは思わないはず。

本当にどうしたんだろう私。考え過ぎて頭の中はぐちゃぐちゃ、色んな事がぐるぐると回って意識がゆっくりと、深い所へと堕ちていった。


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