裏文章

□おはよう(仮)(跡宍)
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夢をみた。


ひどい夢だった。













目が覚めて、隣に眠るお前をみつけてやっと安心できた。
口元に手をかざして確かめる。
規則正しい呼吸に安堵した。
窓から入り込む月の明かりに照らされた顔を見つめる。
柔らかそうな頬に指をすべらせて、たまらずきつく抱き締めた。
起こしてしまうと分かっていても、存在を確かめたかった。

肩口に顔を埋めると、かすかな声が聞こえてきた。

どうやら起こしてしまったらしい。

「ん……?なんだよ…」

それでも答えずにいると、まわした腕をつかみ、はずそうとしてきた。

「…なんなんだよ、跡部…」

寝起きのかすれた声で抗議される。
俺はかまわず更に力を込めて抱き締めた。

「いっ…てぇよ」

後ろから抱き締めているため、直接顔は見えないが、きっと不満そうな顔をしているに違いない。
そう考えると、おかしくて少し笑った。

先程の夢が遠退いた気がする。

「宍戸…」

愛しい名前をつぶやいて髪に口付けた。

「宍戸…すきだ」

俺の腕をはずそうとしている手の力が弱まった。

「何いってんだ…おまえ」
戸惑いを含んだ声。


夢の中の彼もそういった。

『何いってんだ、おまえ。正気か』と。 






夢の中の俺は正気ではなかった。
彼が――宍戸がそう聞くくらいには、正気ではなかった。









狂っていた。








はっきりと覚えている。









もがく彼の体の上にまたがり、動きを封じた。


信じられないものを見る目で俺をみつめる宍戸の首に手を添える。


その目をみつめながら俺は、手に力を込めた。











ありったけの力を込めた。









鈍い音がした。








次に彼の動きが止まり、呼吸が止まった。














俺は泣いていた。







ひどい夢だった。
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