泉 孝介
□10年後の8月
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――小2の夏のこと。
「こうちゃん、来てくれたんだ。」
「おぉ。…もう行っちゃうんだな。」
「……うん。」
おうちの前にはおっきいトラックが止まってて、おとなの人たちがにもつをせっせと運んでる。
ひっこしするんだって。だから今日でさよならなんだ。
「…ひっこしても元気でな。」
「こうちゃんも。やきゅうがんばってね。」
おれは泣きそうになったけどガマンした。だって泣いたらかっこわりぃもん。
おれはもってた野球ボールをわたした。
「これ、くれるの?…あれ?なんか書いてある。」
『こーしえんに出る!!
いずみこうすけ』
「おれ、やきゅうがんばってこーしえんに出るんだ!!だからそんときまでおれのことわすれないでいろよ!!」
「うん!!あたし、こうちゃんのことわすれないよ!!このボールもたいせつにするよ!!」
走りだしたくるまにおれは何回も手をふった。
またぜったいに会えるよな…
「ついに来たなぁ!!三橋!!」
「たっ田島君、甲子園、だね!!」
「おい、あんま暴れんなよー。」
2人ともテンション上がりすぎ。…っていう俺もかなりワクワクしてっけど。
高3の最後の夏、俺ら西浦高校は甲子園出場を決めた。
今日は第一回戦。球場の外で前の試合が終わるのを待っていた。
「前の試合が終わったらすぐ入るよ!!準備しといてね!!」
「「「はい!!」」」
モモカンの声に全員が返事をした。
いよいよだ。夢の舞台、甲子園に立てるなんて未だに信じられねぇ。
……あいつ、覚えてっかな。
「孝ちゃん!!」
聞き覚えのある呼び方に俺は後ろを振り返った。
そこには一人の女の子が立っていて、その手には薄汚れた野球のボールが握られていた。
「甲子園出場、おめでとう!!」
君と夏の終わり 将来の夢
大きな希望忘れない
10年後の8月
また出会えるのを信じて
end