他シリーズ短編

□愛のゆくえ〜想定外か運命か〜
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「わたしたち、こんなふうになるなんてね」

まるで、少しも考えても見なかったことが起きたかのように言ったのは、もちろん照れ隠しだ。

「子供の頃は想像もつかなかったよね」

まったく想定していなかった現実が、流れ星が降って来たかのようにここにあると思えば、彼の心の負担も軽くなるかもしれないから。

「そう?」

けれどそんなひねくれたわたしの思惑は、彼の前には小気味良いほど無力だ。

「ぼくは、君がずっとそばにいてくれたら毎日がどんなに楽しいだろうって思ってたよ。子供の頃から」

純粋な彼。誰よりもまっすぐな彼。心の内を表現するのに、言葉をためらうことをしない彼。

わたしはあなたが羨ましい。そして、苦しいほどいとおしい。あなたに恋した自分が誇らしい。ああ、リュカ、リュカ。

「でも、それを相手にうまく伝えるのは難しいよね。久しぶりに会ってすぐ、君のことが好きなんだって言うのもなんだかおかしいし。

だから、ちょっと変わった道のりだったけど、この機会が自分に訪れてよかったと思ってる。結果論かもしれないけど、ぼくはよかったと思う。

ぼくは臆病者だし、それにこの旅の中で好きな人を想うことが、どこかで父さんに悪いような気がしていた。だからルドマンさんのはからいがなければ、 君に結婚してほしいって言えたかどうかわからない。情けないけれど。

今君とこうしていられる奇跡が起きた、これまでのすべてに感謝してるよ」

彼の言葉はまっすぐ過ぎて、飾り気がなさ過ぎて時々肩透かしだ。運命の恋を夢見る女の子が求めるようなドラマティックさもない。けれど、これ以上ないほど透明だ。磨き抜かれた純度100%の愛の粒が、わたしに向かってぱらぱらあふれ落ちて来る。

他人の力を借りてプロポーズなんて情けない?いいえ、リュカ、人は他人の力を借りないと生きてはいけないのよ。誰もひとりでなんて生きてやしないのよ。

だとしたらあなたの言う情けないって、なんて素晴らしいことなんでしょう。

「愛してるわ、リュカ」

わたしは彼の手を取って言った。言わずには言われなかった。

「これまでも、これからも、あなただけをずっと愛してる」

思ってもないことを告げられたように、彼が目を見開いて頬を赤くした。意外だった。それでは彼も、まっすぐな言葉に弱いのだ。直球を投げるからといって直球を受けとめ慣れているわけじゃない。わたしはもっと、素直になっていいんだ。もっとありのままに想いを伝えてもいいんだ。

「朝になったら、一緒に散歩に行こうか。ビアンカ」

さりげなく話題を替えたのは照れ隠しなのだとすぐにわかった。あんなにストレートにものを言うくせに、欲しい時に欲しい答えを返してはくれない。胸を甘すぎる寂しさが満たす。

でもきっと、彼はまた思いもよらぬタイミングでわたしに投げて来るだろう。澄みきった直球の言葉を。純度の高い透明な鏡のような想いを。

あなたはいつも変わらない。わたしはいつも変わろうとする。

彼がわたしを抱き寄せる。「すこしだって離れていたくないよ、ビアンカ」とささやく。頬に落ちる黒髪。この髪が子供の頃から大好きだった。

幼い記憶が鮮やかによみがえる。やっぱり、すべては想定内だったのかもしれない。




―FIN―



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