他シリーズ短編

□答え〜ぼくが君にあげる物〜
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「つらかったでしょう」

君が言った。

「こんなふうに選択を迫られることって、なかなかないと思うの。それも、人前でだなんて」

ほんの少しやるせなさそうにはにかみながら、おずおずと君が言った。

「だから、とてもつらかったでしょう。苦しかったでしょう」

そうなのだろうか。ぼくは、つらかったのだろうか。本当につらいのは選ぶ方じゃなくて、選ばれる方じゃないのだろうか。

選ぶ方には逃げ道がある。選び取って、そこを去ってゆくことが出来る。選ばれなかった者を置き去りにして、まるで誇り高き勝者のように。何にも勝っていないのに。

自分の痛みより他人の痛みを案じることの出来る強い君。

「ねえ、わたしでいいの?本当に」

言葉を詰まらせ、君がまた涙ぐんだ。さっきから心配ばかりしているね。涙だってもう、何度ぽろぽろ落としたかわからない。

ぼくはもっと、喜んでもらえると思っていたんだけどな。この答えを選び取った理由はただひとつ、これからもずっと君の笑顔を隣で見ていたい。それだけだから。

昔から変わらない願い。今も、これからも変わらない。

ねえ君、運命の悪戯に翻弄されて、花嫁を選ぶという摩訶不思議な状況に追いやられてしまったからといって、ぼくが少しでも迷ったんじゃないかなんてどうか思わないでほしい。

小さかった子供の頃、一緒に古いお城へお化け退治に行ったね。ふたりでべそをかきながら、手を取りあって一生懸命戦った。

あの時のように、ぼくはこの世界中に存在するすべての怖いものから、もう一度君のことを守りたい。

「君じゃなくちゃ駄目なんだ」

だから、笑って。君の笑顔が見たいんだ。泣かせてごめん。ぼくがもっと強い男だったら、君にこんな思いをさせることもなかったのに。

起きてしまった事実を変えることは出来ない。全部をなかったことにして、もう一度冒険の旅を最初からやりなおしたとしても、ぼくにはまた、あの日のように避けられない選択肢を迫られる時がやって来るのかもしれない。

でも、声を大にして言おう。射し初めたばかりの輝ける太陽の光を背に、胸を張って叫ぼう。ぼくは君が好きだ。何度だってこの手で選び取るこの答え。

ぼくの花嫁は、君だけ。

「ぼくは君がいいんだ。君じゃなくちゃ駄目なんだ。

ぼくはずっと、君しか見えていなかったんだよ。だから、これからも一緒に世界を旅しよう。見たことのない景色、聞いたことのない歌、行ったことのない場所を探してふたりで歩いて行こう。

大好きなぼくのお嫁さん、ビアンカ」




−FIN−



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