間に合わなかった宿題 910
□お手をどうぞお姫さん
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乱菊は朝から不機嫌だ。
「湯気たってる」
頭から…
「何よ。9月なのにこんなに暑いなんて反則よ。それにクーラー壊れるなんて、ありえない」
「せやかて、そんなん予想つかへん。修理も今日は無理やて」
まだ朝だというのに既に部屋の中は茹だる様な温度になっていて、流石に穏やかな気持ちにはなれなくて、つい声が尖る。
「去んだら?キミの部屋なら涼しいやろ。」
ついでにボクもお邪魔させてや
と続けようとしたのに、これ以上ないくらい不機嫌な声で遮られた。
「折角有休までとったのに予定がぐちゃぐちゃだわ。もうやだギンのせいよ」
ヒトの言う事全然聞いてへんな。
ありえない。ありえないと呟きながら行ったり来たりしている彼女に、何だか可笑しいんだか苛つくんだかわからない妙な気持ちになって、ボクはつい口走る。
「何でも思い通りに行くはずないやろ。お姫さんかキミは。」
しもた。口が滑った。
彼女は、目を見開いて、それから何も言わず大きく音を立ててドアを閉めて出ていった。
はァ…最悪やな
ベットに倒れ込んだ。
二人とも近頃忙しくて、やっと今日休みを合わしたところだった。久しぶりに一緒に過ごせるはずだったのに。
しかし暑いな
うだうだ考えていたが、日頃の疲れも手伝って知らぬ間に眠ってしまった。
…………………
気が付くと、夏の名残のヒグラシが頼りなげに鳴いてるのがかすかに聞こえた。
あァ、もうそんな時間か。
だる…
徒労感にウンザリしながら、冷蔵庫を開けてペットボトルから直にミネラルウォーターを飲んだ。
ふと、テーブルの上を見ると、携帯のランプがチカチカ光っている。
不在着信と着信メール一つづつ。
乱菊からや。
まだ怒ってると嫌やなァ
気が進まないままメールを開いた。
『ゴメンなさい』
ボクは慌ただしく身支度をして、家を出た。