title of 910


□ノックアウト3秒前
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「隊長。」


「隊長ぉ。」


ん。なんや。イヅル。騒がしなァ
もちょぉ寝かせてや。

ギンは御廷で行われる定期総会に出席していた。業務の報告等と合わせて、各隊からも出し物が出される。大きな祭の様なものだった。

「ハァ。お気楽なもんや。ナァ。イヅル、そう思わへん?」

お幸せなこっちゃ

壇上を眺めれば、ちょうど総隊長の挨拶が終わる所だった。

「た、隊長。聞こえます。勘弁して下さいよぉ。」

「そ。かまへん。かまへん。どうせ毎年同じ話しやし。飽いたわ。」

大きく咳払いし話終えた総隊長の方を、吉良は固まりつつ見やりながら、顔を赤くしたり青くしたりしている。

ギンはクツクツ笑った。

「んな気ぃこまいと出世出来ひんで。あァ、そや、お茶寄越してんか。」

三番隊の業務報告も暫く前に終わっていたため、もう既に物見遊山気分である。

「次は何や」

大きな欠伸を一つして、お茶を啜りながら問う。

「はい、総隊長のご挨拶も終わったんで、隊員の出し物ですね。女性死神協会が一番手です。松本さん達の舞踊だそうですよ。」

ガサガサと式次第を拡げながら吉良が応えた。

「達?今日のは群舞か。」

あァ。今年はどんな演目やろ。

毎年乱菊は趣味である日本舞踊を披露するのが常だった。ひそかに楽しみにしていたギンは目を細めて座り直す。


その時、急に会場が暗転した。

会場全体がいきなり大音響に包まれる。

「Are You Ready!」

「YEAH!!!」


きらびやかなチアの衣装に身を包んだ女性死神協会の面々が舞台に駆け出して来た。

会場が大きくどよめく。

「ひ、雛森君。」

太腿もあらわなその衣装に、吉良が思わず声を上げて、それから慌てて口を塞いだ。

ギンはギンでそれどころではなかった。
乱菊が、舞台中央に陣取り高く片脚を上げポーズをとっている。

っ!アイツ何しとんねや

乱菊は続け様に豪快なバク転をキメる。その都度スカートが翻って場内から歓声が上がった。
ギンは思わず慌てて身を乗り出し、そのまま思い切り柵に頭をぶつけた。


「隊長…?」


吉良が恐る恐る声をかけてきたが、ギンは虚ろに開眼したまま身動き一つ出来なかった。

「隊長!出血なさってます。っ!」

吉良が一瞬息を呑んで、それから無言で手ぬぐいを差し出してきた。

何やうっとい。

ギンは華やかにダンスを続ける女性死神達から目を離して、怯えつつ見上げる部下の方をみやる。そうして、吉良と目が合って初めて、ようやく自分が開眼している事に気がついた。

はっと我に還って手ぬぐいを顔に持っていくと、出血が額のみでなく、鼻からも出ている。

あァ、イカン。しかしあいつら何ちゅう格好してんねや。はしたない。

怒りは増したが、それでも少し落ち着いて、血を拭き取りながら周りを見回す。と、隊員達が泡を噴いたり、痙攣したりしながら倒れているのに気がついた。

しもた。霊圧ダダ漏れやった

急いで力を閉じたが部下達の様子は変わらず、それどころかどんどん倒れる者が増えて来る。


会場を見回すと、大口を開けたまま固まっている京楽や、隊長の姿は見えないが氷が噴き出し続けている十番隊のブース等が目に留まる。

何れも同じやな

思わず口の端を上げた時、後ろから刺すような霊圧に包まれた。


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