間に合わなかった宿題 910
□お手をどうぞお姫さん
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それこそありえない早さで彼女の家に着いて。
合い鍵は貰てるけど使わんほうがええやろと判断して、インターホンを一回だけ押した。
「入って。」
彼女が短くそう言った。
「乱」
泣いたのか目を腫らした彼女がボクを見上げた。
「ゴメンな」
「ゴメンなさい」
二人同時に謝ってそれから同時に吹き出した。
「ギンも泣いたの?目が糸目になってる」
「何や、酷いなァ。目ェ細いんは生れつきやし。」
「そうだっけ」
そっと抱きしめる。
「誕生日オメデト。」
ボクの肩に顔を埋めて小さい小さい声で彼女は囁いた。
「ん。おおきに」
彼女を抱く腕に力を込めた。
「乱。食事行こ。この前ええとこ見つけたんや」
「今日は腕に選りをかけてご馳走する予定だったんだけど。」
「ほんまに。それは残念やな。でも、それは何時でもええから。楽しみは後に取っとくわ。」
彼女の料理か…。引くつく顔を押さえつつ答える。
「あっ!私の腕を信用してないね」
酷い男ね
呟く乱菊の手を取って騎士の様に唇付ける。
泣いたり、膨れたり、笑ったり、怒ったり。
目まぐるしく変わるキミの表情を、独り占めに出来る今に感謝しながら、ボクは大袈裟に口上を述べた。
「お手をどうぞ。お姫さん」
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