World is Lior

□1 違和感
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「ん、ちょっとコンビニ行ってくる。」



「ご飯、お兄ちゃんの分もあるよ?ご飯なら家で…」



「いいんだ。ガムきらしたから買うついでに買って食ってくるから。」



いや、正確にはその逆なのだ。


今日の夕飯を買うついでにガムを買うつもりだったのだ。


だがしかし、ここには居場所はないと暗に物語っている両親からの訝しげな視線を背中に感じている青年に、家でこんなに優しい妹と共に笑顔で夕飯を食っている自分の姿など想像できない。


せめてもの情けなのか、銀行に青年専用の口座を作った両親は、そこに毎月少量ながら仕送りのごとく金を入れているのだ。


それはつまり暗に、この家の団欒の中に青年が存在することを良しとしていないのだ。


まぁ、それも当り前か。


高校に入ってすぐに人間関係のこじれで中退してしまったのだから。


両親の必死の説得も無視して。


思い出しただけで自分へのイライラが沸き上がってくる。


今思えば、なぜそんなくだらないことで高校を中退などしてしまったのかなどとも考えるが、いくら考えても答えは出そうにないので、青年は思考をやめて妹から玄関へと視界を移す。



「そっか…。行ってらっしゃい。もう暗いから早く帰ってきなよ?」



「…行ってきます。」



青年はそれだけ言うとまだ残暑残る生ぬるい空気の世界へと旅立つ。





青年には、心優しい妹の無理をした笑顔をあれ以上見つめ続けることはできなかったのだ。


青年は優しすぎる。


彼の妹以上に。


その不器用な優しさが周りの人々を傷つけてしまうことも、今までの人生の中で学んでいる。


だがしかし、無器用すぎるゆえに自分でもどうしたら良いのか分からないのだ。


他人の優しさを素直に受け止めることも、自分の純粋な優しさを他人に発信することもできない。


そのどうしようもない不器用さが、今、彼が一人でいるという現実を作り出してしまっている。


「…暑いな…。」
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