from me
□思春期につき。
1ページ/3ページ
「ギ…市丸くん!!」
登校中、目の前に見えた幼馴染みの市丸ギンに声をかけた。
「松本さんやないの、おはようさん」
「おはよう。これ、市丸くんのお母さんから」
ちょうど玄関を出たとき、隣に住むギンの母に呼び止められ渡された給食袋を手渡した。
「ごめんなぁ、おかんが。ありがとう」
「大丈夫。じゃあね」
それだけ言って足早にギンの元を離れた。
市丸くんと呼ぶようになったのは、松本さんと呼ばれるようになったのは、1週間と少し前からだ。
名前で呼びあってたアタシたちは中学に入学したばかりで浮き足立っている同級生の噂話のネタにぴったりすぎた。
周りの目が気になって、今まで一緒だった登下校も別々になった。
お互いの家も行き来しなくなった。
ギンの隣にはアタシじゃない女の子がいるようになった。
アタシのほうがギンのこと知ってるのにってそんなことも思った。
でも今はそれにも少し慣れた。
だからアタシも。
最近告白された男の子と付き合ってみてる。
でもこんなときギンだったら…とかいつもそんなことを考える。
相手のことを知りすぎてるから。
すぐ頭に浮かんでくる。
思い出したくもないのに。
今はもう関係ないのに。
「おはよう、乱菊」
なんて学校に着けばみんながアタシに笑顔を向けたけど、今日の朝久々に話したアイツのよそよそしい笑顔を思い出してなんだかうまく微笑み返せなかった。
「ねぇ、沙夜、男女が名前で呼び合うことがそんなにおかしいことなのかしらねぇ」
最近よく一緒にいる友達に聞いてみた。
「何言ってんの、そんなの付き合ってなきゃおかしいって」
「そういうもん?」
そう聞きながら窓際の席で男子に囲まれ飄々と笑っているアイツをチラっと見た。
「ひょっとして、市丸くんのこと?」
「違うわよ、あんなキツネ。アタシには関係ないわ」
「何向きになってるわけ?やっぱり気になるんだ?」
「違うわよ!!」
アタシたちのそんな言い争いは担任の先生が入ってきたことによって終わった。
結局その日はもうその話しには触れなかった。