微妙な19のお題
□08.手を伸ばせば、すぐあなたに届く距離で
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昔からアタシはいつもアンタの背中ばっかり追いかけて来た。
貧しかったあの頃は、行き先を告げずに小屋を出るアンタの背中を目で追って…
死神になってからもアタシより先にどんどん出世しちゃうアンタの背中に追い付きたくて…
必死に今までやって来た。
でも今アンタは目の前にいる。
それこそ背中を追う必要もないほど近くに、そして手を伸ばせばすぐアンタに届く距離に。
久しぶりね、なんてかわいく言えるようなかわいい女ならよかった。
寂しかったのはアタシなのに、
辛かったのはアタシなのに、
吉良の名前なんかだしてアンタを怒らせて…
そう思ってやっと気づいた。
アタシは背中を追ってたわけじゃなかったんだ。
並ぶのが怖かっただけだって…
手を伸ばしたい。
近づきたい。
アンタに触れたい。
アンタに触れられたい。
いつも追ってきた遠くの後ろ姿じゃなくて、
手を伸ばせる距離にアンタがいるんだから。
でも、
手は伸ばせない。
近づけない。
触れられない。
触れてくれない。
結局いつもと同じじゃない。
せっかく、手を伸ばせばアンタに届く距離なのに。