微妙な19のお題
□01.ただ、偶然かもしれないあの瞬間
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「なぁ、乱菊、覚えとる?ボクたちが会うた日のこと」
乱菊の自室でお互い何をするわけでもなく、くつろいでいた。
そんな物音ひとつしなかった空間で、いきなりギンが声を発した。
「覚えてるわ。どうしたのよ、いきなり」
「乱のことはじめてみたとき、なんて綺麗な子が寝てるんやろて思たんやで」
「寝てたんじゃないわ、倒れてたのよ」
少しむっとしたように、それでも穏やかに乱菊は言った。
「どっちでもええやない」
「よくないわ」
乱菊の言葉にはあえて返答せず、ギンは続けた。
「ほんでな、ボク今思たんや」
「…あんときて、やっぱり偶然やったんかな?」
「え?」
わけがわかないといった様子の乱菊。
「ボクが乱のこと見つけたんも、乱があそこで倒れてたんも、偶然やったんかな?」
「わからないわ、そんなことどっちでもいいじゃない」
やっと理解した様子の乱菊はサラッとそんなことを言った。
「なんや、ロマンがないなぁ、乱菊は」
「だってそうじゃない?今アタシたちは一緒にここにいるんだから、それが偶然だって必然だって、うれしいことじゃない?」
そう言って穏やかな笑顔で微笑んで隣に座るギンの手に自分の手を重ねる。
柔らかな笑顔でいった乱菊をみると、
「そやな」
とギンも普段の不気味な笑みとは打って変わって、やわらかい笑顔でそういった。
二人はまた、沈黙のなかに戻っていった。
それは気まずくなるような静まり返った雰囲気ではなく、暖かくて何も話さなくてもいいような、やさしい静けさだった。
ただ、偶然かもしれないあの瞬間に感謝…