恋をする
□12.恋したあの日にサヨナラ
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アタシのお腹のもう一つの生命に気づいたのは四日前のことだった。
食欲不振、微熱、吐き気それらの症状から妊娠に気づいたのはアタシではなくギンだった。
すぐに四番隊に行くとやはり妊娠していると言われた。
嬉しそうに微笑んだアイツの顔にホッとしたのも束の間。
その日は何もなくそのまま家に帰った。
そしてそれから音沙汰はない。
当然のようにお腹の中の小さな命について話し合われるのだろうと勝手に思っていたアタシのなかに不安は募る一方だった。
「松本、てめぇ、ため息ばっかついてんじゃねぇ!!気が散ってしょうがねぇだろ!!」
「すいません…」
「なんかあったのか?」
「いえべつに」
本当は隊長に話してしまいたかった。
全部話して大声で泣いてしまいたかった。
でもいくらなんでもいつも苦労ばかりかけている隊長に、まるっきりプライベートなことでまで苦労をかけるわけにはいかなかった。
「だったら仕事しろ!!」
「はい」
ギンに恋したのはいつだったんだろう。
いつから家族が異性に変わったんだろう…
もうそれは思い出せないほど昔で、アタシとアイツが出会ってからの歳月の長さを思い出させる。
昔はよかったな。
アイツの気持ちなんかに左右されずに自分の好きって気持ちだけで突っ走れたし。
やっぱり年を重ねるって嫌ね、何に対しても臆病になって…
「松本!!」
「はい…」
「もうお前帰れ」
「え?なんでですか」
「お前みたいな腑抜けと一緒にいたら俺まで腑抜けになる。市丸んとこ行け」
「今はアイツ関係ないじゃないですか!!」
「お前がへこむのは酒の飲みすぎか市丸のことだけだろ」
「お酒の飲みすぎです!!」
「んなわけねぇだろ!!もうてめぇここ何日がずっとそんな調子じゃねぇかよ!!とにかく帰れ!!何が理由でも今すぐ帰れ、減給すっぞ」
「わかりましたよ、帰りますぅ」
「早く」
「はい…」
結局隊長に急かされて重い足取りで自室に向かう。