恋をする

□14.まだ君を愛している
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「ギン」


何度声を枯らしてもアイツには届かないのに。

アイツが空に消えたあの日から口にしない日はない…




アイツが空に消えてからもう数週間が過ぎた。

まだ普段通りとはいかないもののいつもの日常に近づき始めているのも確かだった。




「ごめん、七緒。隊長に残業押し付けられちゃって」


仕事が片付くと隊舎から飛び出しいつもの居酒屋。

「大丈夫ですよ。それより、ちゃんと仕事は片付いたんですか?」

「もちろんよ。アタシを誰だと思ってるわけ?」

「乱菊さんだから心配してるんです」


七緒の顔を見て少しだけ心が暖まった気がした。


仕事が終わって一日の疲れを癒すために気心の知れた友人と酒を飲む。


ほら、いつもの日常。


特に今回の一件に直接被害を被らなかったうちや七番隊なんて元通りと言っても過言ではない。

だからあのあと何度かこうして会ってはいるけれど特にあの事について話すこともない。


それがいつもの日常。


今日だって隊長の悪口を言い合って、些細な日常を報告する。

少なくともアタシはそう思ってここに来た。

でも七緒はポツリと言った。


「乱菊さん、元気…ないですね」

「え?」

そんなことを言われたこと今までにあったか…いやない。

こんな深刻そうに聞く七緒の顔なんて見たことがなかった。


「前々から気になってはいたんです。」


「黙ってようと思ったんですけど…やっぱり引っ掛かっているんですね、あのことが」



「あのこと」それが示す意味を今ならきっとやちるにだってわかるだろう。

アイツが空に消えた日のことだ。


「な、何言ってるのよ、七緒。もう酔ったの?」

「乱菊さんこそ何をおっしゃってるんですか?とぼけても無駄ですよ?」

「とぼけてなんか…」


そこまでいいかけたアタシを眼鏡の奥のキリっとした目で睨んだ。

無理だ、と諦め潔く決意を固めた。


女々しい女になる決意を。
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