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□スキとキライの裏返し
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 今日は遅くなった。学校の部活で時計を確認をするともう八時になっていた。空気が冷えて、肺も体も冷えきってしまった。
真っ白な息は湯気のように口から出るとすぐに消えていた。
家路へと滑るように走っていく。満月と街灯の翳りが見えて、走るスピードが落ちて星を見上げるように空を仰ぎ見た。


「……あ?」


星のように銀色に輝く何かが見えた。それはフワリと俺の前に降りると、表情を変えることなくコツコツと革靴を鳴らしながら近付いてくる。一瞬だけ、風が消えて目の前のそれと対峙する。


「おまえ、誰だ」


カラスのように真っ黒な髪と、真っ黒な瞳。どことなく幼さが残るその顔に、怯えなのか寒さなのか体が震える。一歩近付くと一歩下がる。けれど、すぐに壁に背中をぶつけた。


「知らない」

「は?」


 疑問を聞いたつもりだが、何とも腑に落ちない返答に眉を寄せる。何を言ってるのか、何が言いたいのか俺には分からない。
触るな近寄るな。そう思っても喉に張り付いてしまって言葉にならない。

にぃ、と猫のように微笑むとその距離を縮めた。


「くるな」

「ん?」

「だ、れだよ。警察呼ぶぞ」


 時計を確認のために出した携帯電話を握りしめた。ぎしりと音が鳴ったが耳には入らない。
その薄ら笑いを張り付けたまま、男は言う。


「警察は困るなあ」


 困ってなさそうに笑ってるのが不思議で仕方がない。壁に当たる背中が痛くて傷がついてると思うくらいだ。
男は俺の頬を慈しむように、さわさわと撫でる。その行為のたびに背中が凍りつくため鳥肌が立っている。
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