BGL
□小指に赤い糸
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共通する二人の記憶。それは小さく、あまりに小さくその世界が全てだと勘違いをするほどに昔の話。
「アオイ」
「あ?」
「アオイ」
「なんだよー、何回も呼ぶなよソラ」
「へへっ、だってさ、大好きだから」
子どもだからこそ、その曇りのない言葉を素直に受け入れられて、また俺もその言葉を繰り返せた。
「俺も好きだって」
「離れたくないよー」
「……なんの話だ」
ギュッと前から抱きつくソラ。小さく口角ぎりぎりにキスをする積極性よりも、今まで言わなかった言葉に反応してしまった。
甘えるソラに俺はそのまま頭を撫でる。目をニィと細める姿はまるで猫だった。
「僕、さよならみたい」
「なんだよ、それ」
「引っ越すんだって、嫌だなぁ」
「……別に引越しは寂しくねぇよ」
「え?」
寂しそうな辛そうな顔。どれだけ離れるか何年会えないのか分かってないガキの癖に強がって意気がって話していた。
「また会えば良い。忘れてしまえば二度とサヨナラだろ」
「……アオイ」
「それに」
ソラの手をとり、左手の小指同士を絡ませた。まるで指切りをするようにだ。
顔はゆっくりと近付けさせ、大人ぶって唇を寄せた。目を閉じれば互いに見えなくなるけれど、温もりだけは確かにあった。
「見えなくても、俺らには赤い糸がついてるだろうしな」
「……アオイ」
「絶対に忘れない。ジジィになったって忘れないからな」
「僕も忘れないよ。ずっと、アオイのこと好きでいる」
長く、永い時間だと思っていた。覚悟はしていた。こんなすぐに再会するとは思わなかった。
でも、人の記憶ってのは曖昧でどんな拍子に忘れてしまうのか分からない。本当に、記憶の彼方に消えてしまう前に会えて良かった。