BGL
□小指に赤い糸
3ページ/4ページ
学校も終わり、トボトボと帰宅をしていると背中に衝撃を感じて前のめりとなった。
「誰だ、謝れコノヤロー」
「ひっ、ご、ごめんなさい!」
情けない声をあげるその不審者。マウンテンハットに黒くて大きめのサングラスをかけた男。自分よりも身長が低いため顔は分からないが、必死に上目遣いのように顔を上げると固まった。
「アオイ!?」
「なんで俺を知ってる」
「や、あ、あの、すみません!」
「おいっ!」
走り出して逃げようとする男に、意味が分からないが名前を知ってる理由が気になるため追いかけた。
運動慣れしてないのか、すぐに追いついて腕を掴んだ。
「ぜぇはぁ、待て、って」
「はぁ、はぁ、だから、ごめん、なさいって、言って、るだろ」
「なん、で、名前、知ってるんだ」
「……はぁ、はぁ」
息が絶え絶えになる二人。唾を飲み込んで、一呼吸をすると不審者は俺を見上げた。
サングラスで分かりにくいが、顔を合わせないようにしてる姿に、目も合わせないようにしてることを悟らせた。
「短距離走、苦手だから走んなよ」
「長距離走も無理でしょ」
「まあな」
じんわりと額に汗がにじみ出てて、ようやく息が落ち着いてきたようで、動くのを止めて腕を掴まれたままコンクリートの壁に寄りかかった。
「で、なんで名前」
「忘れたの」
「あ?」
震えるような掠れた声が俺の言葉を遮った。震える反対の手でサングラスを外す。
綺麗な目が露になり、最近見た顔が出ていた。
人通りのない通路だからか、何も警戒がない。
「だから?」
「酷いよ! 忘れたの!?」
「それとこれとは違うだろ、ソラ」
「だってアオイが忘れてるのが悪いじゃん! 僕は一度だって忘……れた、こと……。あれ?」
ソラは興奮するように噛みついてきたが、急に言葉がたどたどしくなりゆっくりと俺の目を見つめた。
それがどういうことか分かってるため、敢えて言葉にはしなかった。
「なんで……、忘れてない、の?」
「忘れたことなんてないさ」
「……」
「約束したこと、ソラの方が忘れたのか?」
強く左右に頭を振るう。それが、ソラの気持ちを表してるんだと思うと嬉しくなった。そして、その掴んでいた腕を強く引っ張り抱きしめた。
わわっ、と動揺する姿が何も変わってない。自分の腕の中にある温もりで、心が満たされた。
そして、そのままソラに口付けをした。抵抗もせずに、受け入れることを知っていた。知っていたからこそ、乱暴ではなく優しく壊れないように……。