番外編と短編の本棚

□翼を失ったウィッチ番外編〜ひと時の安らぎを〜
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次の日、朝食の時間になってもやって来ないクレヴィングを不審に思い、エイラと芳佳が部屋を訪れた。

コンコン、ガチャ。

「クレヴィングさん、朝食の時間ですよ。起きて下さ…い…」

「おい、大尉起きろよ。何やって…」

中に入った二人は、動きを止める。部屋の主であるクレヴィングに、銀髪の少女が抱きついて寝ていたからだ。

「ん?ああ、悪いな二人とも。起きてみればこうなっていて、動けないんだ」

二人に気付いたクレヴィング。無理に起こせず困っているらしい。それを聞いたエイラは、ベッドに歩み寄りサーニャを軽く揺さぶった。

「おい、サーニャ。起きろ、サーニャ」

「…う、ん…。…エイラ?どうしたの、こんな朝早くから…」

何度かしてようやく目を覚ましたサーニャは、エイラを見て首を傾げる。そこで芳佳が告げる。

「サーニャちゃん、おはよう。あのね…」

「…!?ク、クレヴィング先生が、どうして…?」

 芳佳の指差す方へ視線を向けたサーニャは、自分がクレヴィングに抱きついていることに気づくと、顔を真っ赤にして離れる。

「いや、ここは私の部屋なんだが…」

「え?じゃあ、私また寝ぼけて…」

 やはり覚えていないらしい。

「ご、ごめんなさい、先生。自分の部屋に戻りますから…」

 ベッドを出ようとするサーニャの頭に軽く手を乗せ、クレヴィングは優しく言う。

「私はこれから朝食に行くし、ほとんど部屋には戻らないから、ここで好きに寝てもかまわない」

「え、でも…」

 口ごもるサーニャを勘違いしたのか、軽く眉を寄せる。

「ああ、それとも、煙草の匂いが残ってて嫌だったか?」

「い、いえ、そういうわけじゃ…」

「なら、いいだろう?ほら、お休み」

 何度か優しく撫でると、だんだん瞼が下りてきて、ついにはサーニャはまたベッドにもぐりこんだ。

「これでいいだろう」

 サーニャに毛布をかぶせたクレヴィングは、「すまなかったな」と立ち上がった。

「いえ、そんなこと。・・・でも、クレヴィングさん、優しいんですね」

 瞳を細めてクレヴィングを見る芳佳。いつもは淡々と話すこの喫煙家は、不器用ながらも優しいことを、芳佳だけでなく、他の隊員たちも知っている。

「ホラ、もう行くゾー」

 また起こしては大変だと、クレヴィングたちを部屋から出すエイラも、それは分かっている。人見知りで恥ずかしがり屋な黒猫が、慕っているのを何度も見ているから。

「・・・ありがとナ」

 だから、エイラは呟く。彼女が安心できる場所をまた一つ作ってくれたから。

「・・・なんのことだ。別に、私は何もしていない」

 芳佳とエイラより先に歩くクレヴィング。ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、その耳はかすかに赤く染まっている。芳佳とエイラは二人顔を見合わせて笑った。

(fin)
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