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□ストライクウィッチーズ 転生者の日々 第二話
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 1939年。

 私、天宮雨音がオリヴィア・ユーニス・ランバートとしてこの世界に転生して、クロムウェル夫妻の養子となって6年。私は11歳になった。

 第二の人生を歩むことになったこの世界は、前世の私がいた世界とは大分違っていた。
 私が今住んでいるこの国はブリタニア連邦というのだが、前世ではイギリスという国名であった。それだけでなく、扶桑皇国(日本)やリベリオン合衆国(アメリカ)、帝政カールスラント(ドイツ)など、各国の国名までが変わっていた。
 
 しかし最も驚くべきは、今は前世でいうと第二次世界大戦が勃発しているはずの時代であるのだが、なんと、その第二次世界大戦どころか、各国での戦争が起こっていないのである。その代わり、異形な侵略者が人類を脅かしている。

 ネウロイ。突如現れたその怪物により、人々は故郷を、国を失い、人類はネウロイを世界共通の敵として、徹底抗戦に打って出た。

 だが残念なことに、ネウロイは瘴気を発しており、通常の人間では近付いただけでも致命傷となる。そのため、対ネウロイ用として、とんでもない兵器が開発された。

 ストライカーユニット。

 言葉だけなら、前世でいう戦闘機のようなイメージを抱くのだが。

『魔力を動力とする魔導エンジンを搭載した魔女専用装備』

―そう、ここは魔力や魔法など、前世では非科学的なものとされていたことが実際に存在する世界であり、しかもこのストライカーユニットを装備できるのは、20歳以下の魔力を持つ少女、ウィッチだけであるという。この時点ですでになんだこの世界、と思うのだが、困ったことに、私自身もそのウィッチである。発覚したのは、私がクロムウェル夫妻に出会った日で、ただ自分の身に起こったことにパニック状態であった。まあさすがに6年経った今では、諦めの境地にいるが。

 しかし、いくら私がウィッチであることを認めていても、ただ一つだけ認められないものがある。それは、

「リヴィ、コレなんかどう?」
『・・・・!!(無理、無理〜!!)』

 私ににじり寄る養母さんが持っている、もはやパンツというしかない、一枚の布、ズボンである。

 最悪なことに、この世界の女性は、パンツをズボンとして考えており、扶桑などでは女学校でセーラー服にスクール水着やブルマやパンツが普通であるらしい。

「もう、このズボンも可愛いじゃない。なんで嫌なの?」

 もちろん、私の養母さんも同様であり、20代前半を過ぎているのにもかかわらずスラッと引き締まった下半身には、黒いパン・・ズボンを穿いている。ちなみに、養母さんが持っているのは、ピンクの布地にフリフリのレースが惜しみなくついているズボンである。あまり肌を露出したくない私だが、これは許容範囲外である。
 首を振って後ろに下がる私になおも近寄る養母さんに、いい加減に私の限界も越えた。私の身体を青白い光が包み、ウィッチの証である使い魔、ソマリの耳と尻尾が現れる。

『お養母さん、もうやめてください』

 話せないはずの私の口から、言葉が発せられる。ウィッチの中には、固有魔法を使うことのできる者もいる。私の固有魔法は振動操作。その応用で、普通なら聞こえないほどかすかに発せられる自分の声の振動を増幅し、聞こえるようにしているのだ。

『フリフリは嫌だって言ったのに』
「えー、そんなに嫌?フリフリが可愛いのになー」

 ブーブー文句を言いつつも、ようやく引き下がる養母さん。このやりとりはほぼ毎日行われるため、周りのみんなは「いつものことか」と見向きもしない。・・・薄情だ。不機嫌に頬を膨らませる私を見て、クスクス笑う養母さん。

「それにしても、つくづく便利よねーその能力」
『?』

 養母さんの言っている意味が掴めず、首を傾げる。

「だって、振動を操作すればいろんなことに使えるじゃない。例えば、わざわざ遠くまで行かなくても話したり」
『私は拡声器ではないです』

 ムッとする私を見てまた一段と笑みを深くした養母さんは、「でも」と私を優しく抱きしめた。

「そのおかげで、リヴィの声が聞けるんだから、感謝してるのよ」
『・・・っ!』

 頬がかあっと熱くなる。この人は、なんで恥ずかしげもなくサラッとそんな言葉を言えるのだろう。大体私が怒ると、こうやって私を宥めるから嫌いになれない。

『わ、分かりましたから、もう離れてください。朝食の準備をしなくてはいけないので』
「はーい」

 あっさりと離れる養母さん。まだ熱い頬に手で扇ぎながら、私はエプロンを身につけキッチンに向かった。
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