アリスの本棚
□次の未来へ 第二話
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幸せになりたい、とは思わない。
昔から周りにいた誰もが、幸せになれていないから。
あんなに輝いていた時代が嘘のようで、振り返るのが怖い。
だから、本心は見せない。
そう、そのつもりだった。
「あれ、お姉さんも先生なん?」
「ええ、そうですよ。私は桐生凛と言います。英語を教えています」
「ウチ、佐倉蜜柑って言います!よろしくな、凛先生!」
目の前でニコニコと笑っているこの少女は、鳴海が言うにはアリス候補生らしい。なるほど、さっきのは拾い「物」ではなく、「者」の方だったようだ。
いくらか話を聞いていくと、どうやらこの少女の親友がアリス学園にいて、その子に会いたくてここまで来たところを、鳴海が見つけたそうだ。
しかし、いきなり出会いがしらに連れて来るのはさすがにまずいのではないだろうか。頭の片隅でそんなことをぼんやりと考えていると、ノックもなくドアが勢いよく開いた。
「鳴海ー!温室から無断で鞭豆盗ったのお前かーっ!!」
「きゃーっ!」
「ん?桐生先生、鳴海はどこです?」
突然部屋へやってきたこの無礼者は、今ここにはいない鳴海と同僚の岬。ちなみに二人ともまだ学園生だったころの私の後輩でもあり、数少ない友人もある。
「校長室です。いきなり入ってきたから、蜜柑ちゃんが驚いているでしょう」
「蜜柑?ああ、君が新しいアリス候補生か」
岬が声をかけるが、いまだにショックから抜けれずに口をパクパクさせている。かわいそうに。