アリスの本棚
□次の未来へ 第一話
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天賦の才能、アリスを持つ者だけが入ることを許される学園、アリス学園。時刻はまだ授業中のため、その広大な敷地には誰もいない。・・・ただ一人を除けば。
「ここでもない、と」
周りをひととおり歩いて、目標がいないか確認して、やれやれと首を振る。
普段ならこんな端まで歩きまわることはないのだが、とある生徒の脱走情報が入ったために、教師である以上その職務を放棄するわけにもいかない。
もうすでに30分はこの広い敷地を歩いているが、いまだに収穫はない。次のエリアへ向かおうとして、耳の通信型イヤホンから声が聞こえてきた。
『凛先生ー、聞こえるー?』
「どうしたんですか、鳴海先生」
自分と同じように捜索中の同僚である男の声に、足を止める。
「目標、見つけたんですか」
『うーん、それはまだなんだけどね、面白い拾い物しちゃったー』
「・・・は?」
何を言ってるんだ、この男。思わず悪態をつきそうになるのを慌ててこらえる。その間にも何か好き勝手な言葉がイヤホンから流れてきたが、とりあえずスルーする。
「どうでもいいですから、早く目標を見つけないと…」
『分かっ…て…ガー…ガー』
「鳴海先生?」
ドガーン!!
いきなり途絶えた声に聞き返そうとした瞬間、突然何かが破壊されるような音と衝撃が地面を揺らした。
「これは…」
確証はないが、確信する。やっと見つけた。そう考えて少したって、ようやくイヤホンが繋がった。
『凛先生、問題児無事回収ー』
「そうですか」
『あと、さっきの拾い物も一緒に連れてくねー』
多分凛先生も気にいるよ、と告げて切れた通信用イヤホンを耳から外す。
「…何考えているんだか」
〜物語は開幕する〜
(まさか、これが日常を変えるきっかけになるとは知らずに)