Book.

□愛迷/エレジー
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空気が、肌に突き刺さる。
生暖かい風が吹いていた頃が懐かしい。
手を擦ってみた。
手も冷たい。
摩擦しても、全く温かくない。
ぼくは、空を見上げた。
白い破片が降っていたのが、透明な塊に変わる。
勢いが増す。
一瞬で水たまりが出来上がる。
傘を持って、ぽん、と広げる。
ぼくは、アパートから、一歩だけ出た。
それだけで、ぼくの小さな屋根が濡れきる。
無機質に温もりなんて、ある訳がないのに。
「…つめた」
呟いてみる。
ただ、何となくだ。
そう言い聞かせようと、もう一度、呟いた。
出来なかった。
出来なかった。
強く、握りしめる。
冷たい。
また、ぼくは空を眺める。
曇天、空は不機嫌。
灰色を通り超えて暗灰色だ。
「…」
後ろを振り返る。
雨の線が見えただけだった。
溜め息をついて、ぼくは歩を進める。
全く、どうかしてる。
たかだか一人。
どこに居るか分からない奴が居るだけなのに。
ぼくは、もう参ってしまっているなんて。
「…戯言、だ」
だけど、か。
だから、か。
そう言うのが、出来ないでいる。
何でだろうか。
これこそ、ぼくの。
存在意義のような。
そんな言葉なのに。
言葉、だったのに。
「…どこ行ったんだよ…」
ぼくの存在意義が。
ぼくの鏡の向いが。



零崎が、消えた。
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