Book.

□summer flower
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みーんみんみん、などと虫が騒がしくなってきていた。
いつしか、もう真夏のような暑さにまで温度は上がっていた。
春はどこかへ旅行中らしい。もう一年は帰ってこないだろう。
「…はぁ」
鹿鳴館大学、食堂。
そこで戯言遣いこといーたんは溜め息をついていた。
その手にはトレーが握られている。
そのトレーの上には、丼一杯の。
キムチ。
キムチだけで、丼が一杯になっていた。
「…なんでいーちゃんがこんな事してるかって言うと、なんでかおばちゃんにこれを勧められて断りきれなかったんですね、これが」
さらに虚しくなってきた。
現状はもう痛い程理解しているのに。
さらに理解してしまった…。
もういいや。
いろいろ諦めきれた。
ちょっとずつ食べたら、大丈夫だろう。
「…よいしょ、と」
とりあえずトレーを机に置く。
疲れが溜まっていたため、やや乱暴に置いた。
ごとん、というような鈍い音がした。
「はー、…」
重かった。
丼一杯って、結構な重さがあるんだな…。
新たな発見だった。
「…あー、っつい…」
いーたんもまた、急激な夏の暑さに音を上げている一人である。
だって、暑いじゃないか。
しょうがない。
「…ちょっと気晴らしに、外でてみるか」
ここは食堂。
冷房が効いててもいいはずなのに、やたら蒸し暑い。
それに加え、これからキムチを食べる。
言ってしまえば、この時いーたんはヤケになっていた。
もうどうにでもなれ、みたいな。
どうせ暑いならどこでも一緒だろ。
「…その前にこれを片付けなきゃいけないな…」
いーたんの目の前には、見間違えようがない程の量の、キムチ丼。
いーたんはしぶしぶ箸を手に持った。
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