Book.

□君の
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たとえば、君の手
たとえば、君の髪
たとえば、君の足

全部、覚えてる。

たとえば、君の声
たとえば、君の首
たとえば、君の笑顔。

忘れられる、わけがない。


小さいころ。
一緒に声をあげて泣いた。
小学校。
一緒のクラスで喜んだ。
中学校。
背がどっちが高いかでムキになった。


いま。
君はいない。


君がいないだけ
この世界から
「君」という
ひとりの人が
いなくなっただけ
それだけ

なのに。

おれは、
君といないだけで、
ひとり、
残された、
そんなきがした。

ねえ、アーサー。

もし、いま
君がいるなら
おれは、きみに
伝えてもいいかい?

おれは、
おれは、
おれは。



 おれは、その日、なんとなくアーサーと一番最後に出会った場所に行った。
 そこは、屋上。
 自分ちなのに、気づけばアーサーがいたなぁ、と思い出すのさえいつも通りで。
 それが嫌だった。
 アーサーに、会いたくて。
 今までも、何度も何度もここに来た。
 いるわけがない。
 そう分かっているのに、いつもここに来て、あいつの名前を呼んでしまう。
 もしかしたら。
 もしかしたら、っていつもおもいながら来る。
 そんなこと、ありえないのに。
「ああ、なつかしいな」
 ねえ、アーサー。
 おれは心の中で語りかける。
 きみは、おれのこと、覚えてるかい?
 いつも喧嘩して。
 いつも勝負して。
 いつも一緒にいた。
 おれを、覚えているかい?
 覚えていてくれるかい?
 あのころと、同じ夕日が、少しずつぼやけて見えなくなっていく。鼻の奥が熱い。
「アーサー…」
 思わず言っただけの言葉に、


「アルフレッド?」


 返事が、あった。
「……あ、アーサー?!」
 おれはあわてて顔をあげた。
 あの、見慣れてしまった端正な顔立ち。今は何故かしかめられている。
 綺麗な、白っぽい肌に映えるグリーンの瞳。
 あのころと、変わってない。
 全く。
「なに泣いてんだよ」
「っ!な、泣いてなんか、」
 知らないうちに泣いていたらしい。おれは服の袖で涙をぬぐった。
 せっかく会えたのに、相手の顔がよく見えない。
「だっせーのっ。泣いてんじゃねーよ」
 あぁ、あのころと変わらない、この口調。
 なにを言われてもかまわない。
「…君の皮肉はいつまで健在なんだい?」
「てめーが死ぬまでだ」
「そうかい」
 そして、アーサーは、満面の笑顔で、おれに言った。
「…久しぶり、アルフレッド。

 なんか、俺に言うことあるだろう?」

「…エスパーかい、君は」
 ため息をつきながら、おれは言った。
 本当…。
 君には敵わないなぁ、と痛感させられる。
「さあ、聞いてやるよ」
「上から目線も、あいかわらずのようだね」

 言うことなんて
 ひとつしかないさ。

  たとえば、君の手
  たとえば、君の髪
  たとえば、君の足

  たとえば、君の声
  たとえば、君の首
  たとえば、君の笑顔。

  全部。
  ひとつもかかさず。


「きみのこと、大好きだよ。」


 おかえり
 だいすき
 
 ありがとう


 おれも




End.
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