Long Story

□其の三
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翌日、十一番隊隊首室では剣八が珍しく机に向かっていた。
何故ならこの日は、月に1度だけ設定されている、書類整理日なのである。

愛胡「隊長、書類が廻って来ました」

剣「あァ!?またかよ!?」

愛胡「まあまあ、私もお手伝いしますから」

剣「チッ…!」

愛胡「…よろしければ、新しいの入れましょうか?」

剣八の机にある湯呑みを覗き、愛胡はそっと尋ねる。
剣八は愛胡を横見して頷いた後、再び書類に視線を落とした。

愛胡「…どうぞ」

剣「ああ、悪ィな」

愛胡「では、こちらの書類やりますね」

剣「…ああ」

暫くして剣八は、ソファで仕事をする愛胡の隣へと移動し、腰掛けた。

愛胡「あ、書類終わったんですか?隊長」

剣「…いや、休憩だ」

愛胡「……はあ、ちょっと休んだら、早く仕事に戻ってくださいね」

剣「………おめえも少し休め」

愛胡「あっ……もう、隊長っ」

黙々と仕事をする愛胡の手から書類を取り上げた剣八。
彼は、そのままできるだけ優しく愛胡をソファへ押し倒した。

愛胡「隊長…?」

剣「……やらせろ」

愛胡「なっ……何言って…!ちょっと待ってくださっ…!」

剣「…もう十分待った。いや、待たされたぜ俺は。そろそろいいだろうが」

愛胡「だっ、ダメです!ダメなんですって!」

愛胡は剣八の肩を押して必死に抵抗する。

剣「…何がダメなんだ?」

愛胡「…わ、私は……私の身体は……隊長に、見せられるような……綺麗な身体じゃ、ないんです…」

剣「どういう意味だ…?」

愛胡「っ、私は汚れてしまったんです!……心も身体も、あの時に汚れてしまったんです…」

剣「…何があった?あの時ってなァ、なんだ?」

愛胡「……」

愛胡は口籠もる。

剣「愛胡」

剣八は、促すように愛胡の名を呼んだ。

愛胡「…言ったら、私のこと……きっと、嫌いになってしまいます」

剣「ここまで言ったんだ。言え。嫌えになんかならねえから」

愛胡「……」

愛胡は逡巡する。
それを見た剣八は、愛胡の腕を引いてソファに座り直させた。

剣「言ってみろ。ゆっくりでいいから」

愛胡は俯き、過去を思い出そうとした。
蘇る自らの過去は、決まって薄暗い。
愛胡はゆっくりと口を開く。
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